あとは任せた

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 愛弥美はニッコリと微笑んで、可愛らしい唇で文字を描いた。  アホ――と。 「ねえ。一貴。私にはわかっているわ。あなたはなにか変わった出来事があると、宇宙の真理をつかんでしまうの。チャクラが全開で悟りが開運成就」  彼女のそのセリフを聞いて、クラスメート全員の唇が文字を描いた。  お前もな――と。 「一貴。あなた、今朝、何か特別変わった出来事があったんでしょう? そして、そこからあなたは知ったのよ。この世は、誰かが得をすれば誰かが損をするで成り立っているわけじゃない。足あとから成り立っているんだって……」  一ノ瀬さんはそこでもったいつけるようにセリフを区切った。  彼女は次の言葉を期待する僕らの耳目が限界まで見開くのを待ち、彼女は言った。 「真理をね、つかんだのよ」  真理ときましたか、ザワッと教室内が騒然となった。 「林田先生!」  生徒の中から悲鳴にも似た声が上がる。 「気を失ってはいけません! 戻ってこられなくなります!」 「あ? ああ……」  呼ばれて林田は意識を取り戻した。  教え子に宇宙の真理を語られる教師。廃人になってもおかしくはない。 「先生。これ以上は先生が危険です」 「私のことはかまわん。倫理なんて科目は、人から答えを求めるものなんだよ。人に教えるものじゃない」 「すごく問題発言では?」 「そっとしておこう。須藤の語る真理とはなんだ!?」 「それは今朝壊れた洗濯機から語らなければなるまい……」  須藤は教室の天井を見上げながら言った。その両目は涙が潤んで光っているように見えた。それは教室の蛍光灯に照らされた錯覚だったのかもしれないが。 「その洗濯機は俺が生まれる前から家にあったんだってさ。俺のオムツ、俺のパンツをどれだけ洗ってくれたことか。おい、愛弥美。俺のオムツにパンツでニヤニヤするんじゃねえ。幼馴染のお前が4歳くらいのときにうちに遊びにきたとき、お前のパンツだって洗ったことがある洗濯機だって俺の婆ちゃんが言っていたぞ。一体どうしてそうなったのか、詳しくは聞いていないけどな」 「ハハハッ」  どっと笑いが起こった。
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