突然

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突然

30歳にもなって、同僚に5年も片想いしているって、無謀だろうか。 でも仕方ない。 あいつは、優しくて頼りがいがあって、もう一つイケメンで。 優しくされる度に、好きになっていく。 「塚田。」 「なに?石黒。」 「この間の〇〇運輸の紹介文、よかったぜ。」 「本当?よかった。」 求人サイトの作成をしている我が社。 石黒大樹は営業で、取引先を周っている。 求人サイトに載せてほしいと発注を受けた案件を、紹介文と共にサイトに載せるのが、私、塚田梨衣の仕事だった。 「石黒は今日も外周り?」 「ああ。今月は発注数少ないからな。何とか案件取ってこないと。」 こういう話を聞くと、営業って大変だなって思う。 「気を付けて。いってらっしゃい。」 「行って来ます。」 私と石黒は、大卒でこの会社に入って、同期で旧知の仲。 一人一人辞めていく中で、同期はもはや石黒だけ。 そんな中、私達はある約束をした。 それは5年前だったと思う。 会社の飲み会の席だった。 「塚田は今、付き合っている人いるの?」 隣に座った石黒は、私にビールを注ぎながら、そんな事を聞いてきた。 「いるよ。」 私にはそれこそ、3年付き合っていた彼氏がいた。 「付き合って何年?」 「3年。」 「結婚するの?」 「うーん。分からない。」 その彼氏とはまだ、結婚の話は出ていなかった。 彼は自由を好む人だったから、結婚は遅いかもと、不思議にそう思っていた。 「石黒は?彼女いるの?」 「いるけど。結婚はどうかな。」 「嘘ー!付き合っているのに、結婚しないの?」 「バーカ。結婚するかしないか決めるのに、付き合うんだろう?」 結婚話が出ていない私と、結婚する気がない石黒。 なんだか私達は、結婚できないような気がした。 「俺達って、似ているところあるよな。」 「えー。どういうところ?」 「結婚が遠いところ。」 「決めつけないでよー。」 同じ事を思っていたなんて、私の方こそ似ていると思っていた。 「あのさ。こんな事言うのも、なんだけど。」 「うん。」 その時の衝撃は、忘れられない。 「お互い30になっても結婚していなかったら、俺達結婚しようか。」 「えっ?」 石黒と結婚!? 私は衝撃のあまり、口をぽかーんと開けていた。 「どうした?」 「いや、急な話だと思って。」 「急じゃないだろう。後5年もあるんだし。」 「そ、そうだよね。私も今の彼氏と結婚するかもしれないし。石黒も今の彼女と結婚するかもしれないしね。」 「おう。その時はその時。あくまで結婚してなかったらな。」 「分かった。」 「忘れんなよ。」 その時の笑顔に、恋をした。 その後は、しばらく辛い思いをした。 石黒を好きなのに、彼氏とも付き合っていて。 彼氏と別れたのは、それから1年後の事だった。 「好きな人がいる。」 と告げたら、あっさりと別れられて。 今まで付き合っていた時間は、何だったんだろうって考えたけれど、これで石黒を想っていいんだと思ったら、少しだけ心が軽くなった。 あれから5年。 私は相変わらず、石黒に恋をしている。 その日、石黒が外回りから帰って来たのは、5時を過ぎた頃だった。 「なあ、塚田。」 振り向くと石黒が立っていた。 「お帰りなさい。早かったね。」 「思いがけず、発注多かったんだね。早く戻ってきた。」 「おお!さすが!」 そのお陰で今から仕事が忙しくなると思っていた私に、石黒は思いがけない事を言った。 「塚田、今付き合っているヤツいる?」 「えっ?」 石黒を見ると、真剣な顔をしている。 「ううん。いないよ。」 あなたに恋しているからね。 他の人と、付き合えないんですよ。 「誕生日なのに、寂しいな。」 その時、心に波紋が広がった。 「覚えていてくれたんだ。」 「ああ。」 石黒に誕生日を教えたのは、半年前だったと思う。 「今日、お祝いしよう。」 「今日?急だね。」 「思い立ったが吉日。いいだろう?」
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