宇宙人がいた

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宇宙人がいた

地下鉄を降りて少し。 駅前のコンビニに宇宙人がいた。 6月の初め。 蒸し暑い夜。  地下鉄から吐き出た空気に冷やされた汗が二の腕とワイシャツにまとわりつき気持ちが悪い。 口元の汗を指で拭うと朝剃ったはずの顎髭がかすれた爪音と共に確かな存在感を人差し指に与え、深い時間になったことを実感したが、それでも普段より2本早い電車に少し安堵し、僕は余裕を持って電車に乗り込んだ。  乗り込み口の反対の扉に背をもたれ、携帯電話を開く前に周りを少し見渡す。顔を赤らめた中年達と焦燥感漂う細い目線。こんな時間に座れない苛立ちを、同じ境遇の人達を憐れみ、その数の多さを憂うことで誤魔化していると、学生であろう若い男3人が大股を開いて長椅子に座り4人分の空間を占領しているのが目についたが、僕は携帯電話へと視線を逸らした。  学生への苛立ちと懐旧の念を胃の上辺りに丸めながら6駅。地上へ出るとようやく1日が終わった気になる。どうせまた7、8時間後には嫌な気分に苛まれるのは解っているが、それでも今はようやく1日が終わったことが何より嬉しい。軽く食事を採って歯を磨いて風呂に入って眠る。それだけの自由時間が与える解放感が、とにかく嬉しい。 僕は夕飯を買うため、駅を出た先、交差点を渡り銀行の裏にあるコンビニへ寄った。  銀行の看板の裏。 肩身が狭そうに設置された喫煙所で、宇宙人が煙草を吸っていた。
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