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全身、銀。
子供頃から刷り込まれた宇宙人のイメージそのままの宇宙人が煙草を吸っている。
どう見ても宇宙人だった。
大きな混乱と小さな高揚感。
どうすればいいのだろうか。
少し、見えていないふりをする。
宇宙人から目線を逸らす。
どうすればいいのだろうか。
とりあえず少し考えたい。目的地であったコンビニも通りすぎながら少し考えてみた。
本当に宇宙人だろうか。
銀色の体。
全身の3分の1はあろう大きな頭。
内臓が詰まっているのか疑わしいほど細い胴の上に、卵を逆さに吊るしたような頭。
大きな目。昆虫の複眼のような、緑色に光る目。
それに小さい。僕のみぞおち位の身長。あんなに小さくて細い着ぐるみに人は入れない。入れるとしたら同じサイズの宇宙人しかいない。もしくは高性能な立体映像だろうけど、今の地球人では扱えない技術である以上、宇宙人が宇宙人を写し出しているに違いない。つまりはどちらにせよ宇宙人。
宇宙人であることを微塵も隠そうとしない、あまりにも宇宙人な見た目。
これが宇宙から来た者でないのであれば、おそらく宇宙には生命体なんて存在しない。
あれは間違いなく宇宙人だった。
話し掛けるべきか。
街中で女の子に話し掛けたことすらない僕が、宇宙から来た人にコンビニ前で何をどう話し掛けるのか。
勇気がいる。
今までこじ開けたことのないベクトルの勇気が。
しかし34年の人生において、初めて目の当たりにした宇宙人。今後の生涯において、再び宇宙人に出合う保証はどこにもない。
一度チャンスを見送った人間に、次のチャンスなんて絶対にない。
コンビニで煙草を吸う宇宙人なんているのか。
いてもおかしくはないだろう。
どこかの国の家畜のように、宇宙船に連れ去られないか。
コンビニで煙草を吸いながら宇宙船に人を連れ込む宇宙人などいるものか。
うじうじ考えている間に宇宙人は帰ってしまうのではないか。
ならば急がねば。
僕は意を決した。
僕はその場で向きを変え、鞄から煙草を取り出しながらコンビニへと戻った。
まだ宇宙人はいた。
僕は安心すると共に煙草に火をつけ、宇宙人から片腕程の距離で足を止めた。とりあえず煙草を一吸いし、灰皿に灰を落として声を掛けた。
「もしかして、宇宙から来られた方ですか?」
そうです。
彼は答えた。
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