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元カノ、紗知を拾った場所。
学校からの帰り道にある、住宅街の道。ここは特に人通りが少なかった。近くを川が流れ、ガキの遊ぶ遊具一つ無い癖に、雑草が定期的に刈られた小さな空き地。
ただふらふらと、意思もなく歩けば、いつも辿り着く場所。
多少なりとも、思い入れがあったという事か。
しかし、今日は違った。
思いもよらない先客がいる。
小さな背中。少し短くなった、艷やかな髪。
機能性を重視した、色気の無い服装。顔立ちはあの頃より、少し大人びたようにも見える。メイクをせずとも端正な顔。くっきりとした大きな瞳がこちらを見つめていた。
「…貴方ですか?この、写真の人は。」
驚いた。向こうからやって来るとは。しかし、俺の事は全く思い出せていないようだ。紗知は俺に、敬語を使わない。聞いてみれば、後ろ姿の写真一枚で、俺を辿って来たらしい。行動力があるところは、変わらないようだ。
しかし、こいつ。俺の写真を持っていたのか。後ろ姿という事は、隠し撮り。言えば一緒に写るぐらいしてやったのに。
「それが俺だとしたら何だ?お前は何しに来た?」
可笑しくて、笑いたくなるのを堪える。努めていつも通りの冷めた表情で問いかける。
「…貴方と私は、どんな関係だったか教えてくれませんか?写真があるなら、無関係ではありませんよね。」
「…あぁ。俺等の関係、な。」
そんな物、俺が知りたいぐらいだ。俺等の関係は、一体何だったんだ?
お前は愛情を求めていただけで、俺を求めはしなかっただろ?
だが、そういえばそうだ。
俺自身はどうだったんだろうな。
俺自身は、お前という人間をどう思っていたんだろうな。
「…何か言ってくだ」
「紗知。」
小さな唇に、噛み付いた。
必死に抵抗するが、そんなもの体格や力の差からして無意味だ。
もう一度抱きしめたかったし、ちゃんとキスしたかった。久しぶりの再会が、こんな乱暴な形になってしまうのは、残念なようでいて、俺達らしいと思えた。
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