古傷の痛みと共に、呪いを贈ろう

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情けない。 あれから、七年も経ったのにだ。 女と遊んでも、紗知に似た女を見繕っても、本物の紗知が頭から離れない。別れた時の顔が消えない。 刺された傷は、跡も残らず治った。 だが女を抱く度に、傷の箇所が疼き出す。その上に紗知の顔が浮かぶのだ。 あの脳震盪で、あの時の衝撃で、俺の頭の何かを弄くりやがったのか。 そう思いたかったが、違う。 俺は愚か者じゃ無い。既に答えは出ている。だが、勝算の無い事に、全てを賭けたりはしない。狡く生きなければ、やっていけない人生だ。 本来なら、こんな馬鹿な事はしない。 飛行機のチケットを予約した。行き先は母親の墓がある、フランス。 後は、紗知の住む街へ向かうだけだ。 紗知はすぐに見つかった。駅の人混みの中、目と目が合う。一生分の運気を使ったかもしれない。 あの場所で会おうと、強引に約束し、一度離れた。もっと探すのに時間がかかると思っていたから、早めに来てしまった為に、約束の時間まで暇だった。行く宛無く、ふらついてはみたが、田舎の街に面白い物等一切無い。  すぐに待ち合わせ場所に着いてしまった。 手すりの向こうに、長く伸びた川と、線路。 春には桜の絶景スポットになるが、今の季節には関係が無い。本来は、ただの寂しい場所。俺にとっては始まり告げと、終わりを迎えた思い出のある場所となっていた。 怪我をした、まだ小さい紗知を拾った。学校の帰りに、近くの自販機で買ったアイスを食べた。道場で覚えた蹴り技の練習に付き合ってやった事もある。あぁ、あいつがはじめて俺に強く反抗したのも、ここだ。自分と付き合っているのに、女遊びをやめない事や、大学生にもなって弱い人間を痛ぶって遊ぶ事。あいつは、それらに嫌悪していたな。 だが、俺もその時からお前がムカついていたんだ。俺が一番気にかけてやっているのに、指輪をくれてやったのに、他の男に目移りした。俺と一緒に暮らしていながら、いつかはここを出て一人で生きて行こうとしていた。 俺から離れようとしたのだ。 だから、お前の男を襲った。そのせいで紗知に刺されたが、あの男とは別れたし良しとする。 後になって、あいつは俺の女だと、自覚していなかったとわかる。何故だ。女共には、別の女のお古をやったが、お前には俺自身が出した金で、お前の誕生石の指輪をプレゼントしたんだぞ。家に住まわせた女だって、お前が初めてだ。そもそも、他人にここまで執着している時点で気づけよ。
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