古傷の痛みと共に、呪いを贈ろう

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賭けに出てよかった。半殺しも覚悟していたが、足だけで済んだと思えば、腫れた程度何とも思わない。こいつも無駄にならなくて済んだ。 「今度こそ、お前に渡せる。」 「渡せるって…?」 ジャケットにしまっていた、小さな箱を取り出す。開ければ、金色の小さなリングがある。どこかの誰かが言った、俺にお似合いなお金色にしてやった。こいつのイメージは銀色だがな。その分白銀色の宝石の、冷たく鋭い輝きが紗知らしさを出している。 二度と離れないように。離さないように。金色の指輪に、俺の呪いをこめてやった。 「結婚するぞ。」 「…え!?は、早くない!?」 「早くねぇよ。二年も同棲したろうが。」 「や、それは学生の時じゃん。ほら、今は状況が違うし。久しぶりの再会だし。」 「俺はもう手放したくねぇ。おい、手を広げろ!この…っ。」 「痛い痛い痛い!!指折れる指折れる!!」 半ば強引に手をこじ開けて、嵌めてやった。紗知は諦めたように肩をすくめる。 指輪を見つめながら、俺と同じ事を言った。 「金色って意外ね。お金色はあんたの色でしょ。」 「だからお前の指輪にしたんだろ。」 「束縛が強い奴…。無理矢理嵌めたから、指が赤くなったんだけど?」 「折れてねぇんだし、文句言うな。」 お前が俺につけた傷よりも、遥かにマシだろうが。紗知がいなくなった時から、ずっと疼いてきた痛みに比べれば、大した事はないのだが、少しすっきりした自分がいた。言い方はアレだが、俺はお前に同じ痛みを与えてやりたい気持ちもあったのだ。 「あんたは……アキは本当に面倒臭いったらないわ。」 指をさすりつつ、久しぶりに俺の名前を呼ぶ。こいつだけが呼ぶ、俺のあだ名。また聞けるとは思わなかった。 「まぁ…結婚してやってもいいけど、さ。その前にやっぱりやる事あるでしょ?」 「何だ?」 もう一度同棲か。親への挨拶とか言わないだろうな。父親に会いたくは無いが、どうしても結婚の挨拶がしたいと言うなら考える。もしくは、結婚しても仕事を続けたいとか言うのだろうか。 紗知はにやりと笑う。 こいつは昔と変わらず、しかし予想と外れた行動を取るのだ。 「誓約書。二度と私に嘘をつかない、泣かせない、見捨てない。全部守ると誓って頂戴。証人を間につけてね。」 「はは…お前は本当に、いい女だな、紗知。」 面白くて、乱暴で、美人で、最高に愛しい女。お前と作る家庭なら、悪くは無い。 俺も自分の指に、揃いの指輪を嵌めたのだった。まずは、結婚式。そして、子どもだ。
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