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淡白な性格だと思う。
物事に興味が沸かないし、つまらない。感動的なドラマやドキュメンタリーで涙する事も、遊園地のアトラクションで心からスリルを楽しむ事も、俺には理解出来なかった。小煩い不良の馬鹿共が、俺を罵り殴りつけてこようとも、掠り傷一つついた試しが無い。そして小物相手の言葉に、心痛めたりもしない。
俺を傷つける事が出来た人間は、この世に二人だけ。親父と元カノだ。
いや、どちらも『そう』だったかと言えば、怪しいところだ。
親父と俺の母親は、所詮浮気関係にあった。だから戸籍上は他人だし、認知もされてはいない。母親が病死してからは、俺の世話を焼くようになった。といっても、家一軒と学生には手に余る程の金を、ぽいと寄越されただけで、関わってくる事は無い。だが、はじめて学校で教師を殴って、保護者として呼び出しを喰らった時、親父は俺の顔面に平手打ちをした。暫く跡が残ってしまう程、強い力。はじめて叱られた。何故か笑えてしまった。
そして、俺の元カノ。付き合っていたといっても、甘酸っぱい関係は一切無かった。そんな物は俺達には、必要無いのだと勝手に思い込んでいた。
しかし、あいつもそこらの女と変わらない。いや、他の女よりも、誰よりも愛情を欲していた。その事を分かっていた癖に、俺は見て見ぬフリをして来たのだ。あいつが傷つくというのに、他の女を引っ掛け遊びまくる。あいつの前で女とキスをし、時には抱いた。そこに愛情は無い。しかし、元カノが俺に向ける寂しさとも憎しみとも取れる視線に、酷く興奮したのだ。
そんな事をしたからだろう。ある日、元カノに刺された。ナイフを隠していたのは、わかっていた。敢えて、無視してはいたが、そうか、俺へ向けた物だったのか。
あの馬鹿は、自分で刺した癖に、震えてやがった。罵詈雑言を俺に浴びせ、逃げ出したが、追いかけたりはしなかった。追いかけられなかったが正しいか。
『幻滅した』という言葉が、俺の心臓に突き刺さり、身動きさえも出来なくした。
その日の夜。あいつは車に撥ねられ、記憶を失ったのだ。
刺された腹部より、心臓が痛んだ。この痛みは、いくら代わりの女を見繕っても、気に入らねぇ奴等を叩き潰しても、消える事は無かった。
最後の最後に、呪いをかけていきやがったな。
どこまでも、とんでもない女だよお前は。
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