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細い通路をしばらく歩くと、また扉があった。 彼らも慣れているようで、怖がらずに進んでいる。 話を聞き出そうにも、雨の話は避けているように見える。 本当に何があったのだろうか。 彼女がカギを取り出して回すと、その奥は廊下が続いていた。 子どもたちが一斉に駆け出し、私たちはその場に取り残された。 「あれから何度も移動したものですから、先生の部屋も変わっているんです。書類なども残してありますから、確認をお願いします」 「分かった。けど、その前に、彼女と話してもいいかな。 あそこに来るまで、結構辛い思いをしていたみたいだから」 「まあ、そうだったのですね。うるさかったでしょう? お気遣いできず、申し訳ございません」 「いえ、こちらこそ、突然転がり込んできたのに」 「それでは、カウンセリングルームに案内しますね。 狭くなってしまいましたが、どうにか場所は残してあります」 やっぱり、過去に何かあったんだ。 子どもたちを連れて、移動を繰り返している。 彼らの身に何があったのかは知らない。 ただ、あの子たちにとってよくないことであるのは、なんとなく分かる。 「それでは、私は隣の部屋にいますので、何かありましたら呼んでください」 部屋の扉を閉め、出て行った。 ようやく落ち着いて話ができる。 「ここまで本当にお疲れ様。 まさか、こんなことに巻き込まれるとは……」 帽子を脱ぎ、向かいのソファに身体を投げ出した。 天井を仰いで、深くため息をつく。 「私はキスカ。キスカ・フォリアです」 「立華理央。まさか、同じ苗字の別人がいるとはね」 テーブルの上に金属の塊をいくつか置いた。 「その中にあった。 あの雨みたいな音は、これが大量に発射された音だったんだ」 入り口にぶら下がっている小さなバケツを指さした。 中を見ると似たような塊がいくつも入っている。 「これ、何なんですか?」 「少し話を整理しようか。 まず、この周辺地域は何者かによる攻撃を受けている。 あれだけの音だったんだ、結構な人数による攻撃だったかもしれない。 で、ここの人たちはその攻撃のことを『雨』と呼んでいる」 背中に冷たいものが走る。 この塊が彼らが逃げなければならない理由なのだろうか。 銃弾の雨が降っている。それも毎日のように降っている。 想像できない世界だ。 「ここの施設には、『雨』の被害者たちが集まっているんだと思う。 そして、私を誰かと勘違いしていると。大分ややこしくなってきたな」 「タチバナ先生って呼んでましたよね。 学校か何か、なんですかね。ここは」 「いや、学校より闇が深いと思うよ。 かわいそうかもしれないけど、今はどうにかして元の世界に戻る方法を探さないと」 「やっぱり、ここは私たちのいた世界じゃないんですか?」 「そうだね。あの停電の間に、誰かに連れてこられたんだ。 けど、そんな気配は全然なかったんだけどな……どうなっているんだ?」 「何のためにやったんですか?」 「あの子たちのために、じゃない? どう考えても。 他の先生たちがいるとはいえ、こっちのタチバナ先生をかなり頼っていたみたいだし」 まとめ役か何かなんだっけ。 子どもたちの喜ぶ姿で、慕われているのは見て分かる。 この場所にいたところで、何かができるわけじゃないのは分かっている。 こんなひどいことが起きているのに、何もできない。 悲しさと悔しさが込み上げてくる。 重い沈黙を破るように、スマホが震えた。 『立華ァ! ようやく出やがったな! どこで何してんだボケが!』 電話から怒鳴り声が響く。 「カイン! よかった、そっちは無事か?」 『ふざけたこと聞いてんじゃねえ! こっちはお前が突然消えて、ずーっと探し回ってたんだよ!』 「なるほど……ねえ、停電の間に何かあったらしいんだけど。 原因分かりそう?」 『なんか金髪の女の子も一緒に消えたらしい! その子に手ぇ出したらテメェの髪を首ごと切ってやるからな!  近くにいるなら声を聞かせろ!』 会話がおもしろいほどに噛み合っていない。 ていうか、恐ろしいほどに冷静に対応している立華さんもすごい。 「金髪の女の子って、キスカ・フォリアさんのこと? 隣にいる! 私は何もしていない!」 『今すぐ変われ! 声を聞かせろ!』 立華さんはスマホを手渡した。
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