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4
停電から復旧した後、キスカの姿が消えていた。
福袋だけが取り残されていた。
スマホで電話をかけても全然通じない。
何も言わずにどこかへ行くとも思えない。
ひさしぶりに会えて、一緒に年を越せたと思ったのに。
「どうした? そんなキョロキョロして」
明るい茶髪をばっさり切った男性に声をかけられた。
「人を探してるんです!
私と同い年の、金髪の女の子!」
「奇遇だな、俺も金髪の男を探してる。
アホみたいに伸ばしてるんだけど、見かけなかったか?」
ふむとため息をついた。
髪を伸ばしてる男の人、先ほどすれ違った人だろうか。
カッコいいらしいけど、全然分からなかった。
「俺はカイン。アンタは?」
「四ツ谷夏美です」
「四ツ谷な。停電が起きる前は何してた?」
「ここで話してました! 彼女、私の目の前にいたんです!」
「なら、見逃すはずもないわな。
俺も似たような感じだ。電気ついたら、いなくなってた」
電気が落ちたあの一瞬で、どこかに連れ去られたということだろうか。
電波も届かないような場所か、あるいは没収されてしまっているか。
嫌な想像が脳裏をよぎる。
「とにかく、だ。
行方不明者が現在、二人いるわけだな」
「そうですね」
「あの野郎が狙われる理由は、心当たりが多すぎて分からん。
自分自身にしか分からないことだって、あるだろうからな。
ただ、アンタの友達が消える理由が分からない。
そういう奴でもないんだろ?」
彼の言うそういう奴が、どのような意味があるかは分からない。
ただ、誰かに恨まれるような覚えはない。
私の知っている彼女であれば、恨みを買うようなことはしないはずだ。
「そもそも、一緒にいるんでしょうか?」
「わざわざ分ける理由が思い当たらないだけだ。
まとめてさらっちまった方が話は簡単だろ」
「じゃあ、一体どこに……?」
スマホの着メロが鳴る。
画面を見た瞬間、嫌そうな表情を浮かべた。
『立華ァ! ようやく出やがったな!
どこで何してんだボケが!』
いきなり怒鳴りつけた。
ブチ切れたということは、電話の相手はさらわれた友達なのだろうか。
『なんか金髪の女の子も一緒に消えたらしい!
その子に手ぇ出したらテメェの髪を首ごと切ってやるからな!
近くにいるなら声を聞かせろ!』
物騒なことを平気で言ってのける。
周囲の客が私たちに白い目を向ける。
その視線がとてつもなく痛い。
「はい、友達は一緒にいるってさ」
さんざん大声で騒いだ後、何もなかったようにスマホを差し出した。
『なっちゃん、大丈夫?』
不安そうな声が聞こえた。
姿は見えなくとも、聞き慣れたそれに安心感を覚える。
「キスカ! よかった!
急に消えたから、どこに行ったかと思った!」
『ごめんね……迷惑かけちゃって。
立華さんに助けてもらったんだ。うん、すごくいい人だよ』
「今どのあたりにいるの?
ずっと電話かけてるのに、なかなか出ないし」
『えーっとねー……なんて言えばいいんだろう。
まず、モールにはいないんだけど。
そうだ、周りのお店とかどうなってる?』
「お店? 普通に営業してるけど」
『じゃあ、やっぱりそうなんだ……』
ひどく落ち込んだ声が聞こえる。
この様子だと、停電の間にどこかへ連れ去られたらしい。
『初めまして、私が立華です。
さっきお話ししたように、フォリアさんは私の隣にいます。
ただ、想像以上のことが起きて、ショックを受けているみたいです。
とにかく一度、カインと代わってもらえませんか?
彼なら、多少の事情も分かると思いますから』
落ち着いた声の男性と代わった。
この人が立華さんか。イメージと全然結びつかない。
カインさんの方を見ると、黙って手を差し出した。
「分かりました。代わります」
スマホを返すと、近くに来るよう手招きされる。
「おい、どーなってんだ?」
『私が言いたいくらいだよ、そのセリフ』
不審そうに視線を向けてきたり、見ないふりをして立ち去ったり、忙しそうに歩いている人はいても、さらわれた人を探している様子はない。
「見た感じ、割と平和そうなんだけどな」
『そう……なら、そっちにいるんじゃない?
私たちをこっちに飛ばした犯人』
「飛ばした?」
『私たちは今、別世界にいるんだよ』
その言葉は、私の予想をはるか上を超えていた。
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