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停電から復旧した後、キスカの姿が消えていた。 福袋だけが取り残されていた。 スマホで電話をかけても全然通じない。 何も言わずにどこかへ行くとも思えない。 ひさしぶりに会えて、一緒に年を越せたと思ったのに。 「どうした? そんなキョロキョロして」 明るい茶髪をばっさり切った男性に声をかけられた。 「人を探してるんです! 私と同い年の、金髪の女の子!」 「奇遇だな、俺も金髪の男を探してる。 アホみたいに伸ばしてるんだけど、見かけなかったか?」 ふむとため息をついた。 髪を伸ばしてる男の人、先ほどすれ違った人だろうか。 カッコいいらしいけど、全然分からなかった。 「俺はカイン。アンタは?」 「四ツ谷夏美です」 「四ツ谷な。停電が起きる前は何してた?」 「ここで話してました! 彼女、私の目の前にいたんです!」 「なら、見逃すはずもないわな。 俺も似たような感じだ。電気ついたら、いなくなってた」 電気が落ちたあの一瞬で、どこかに連れ去られたということだろうか。 電波も届かないような場所か、あるいは没収されてしまっているか。 嫌な想像が脳裏をよぎる。 「とにかく、だ。 行方不明者が現在、二人いるわけだな」 「そうですね」 「あの野郎が狙われる理由は、心当たりが多すぎて分からん。 自分自身にしか分からないことだって、あるだろうからな。 ただ、アンタの友達が消える理由が分からない。 そういう奴でもないんだろ?」 彼の言うそういう奴が、どのような意味があるかは分からない。 ただ、誰かに恨まれるような覚えはない。 私の知っている彼女であれば、恨みを買うようなことはしないはずだ。 「そもそも、一緒にいるんでしょうか?」 「わざわざ分ける理由が思い当たらないだけだ。 まとめてさらっちまった方が話は簡単だろ」 「じゃあ、一体どこに……?」 スマホの着メロが鳴る。 画面を見た瞬間、嫌そうな表情を浮かべた。 『立華ァ! ようやく出やがったな! どこで何してんだボケが!』 いきなり怒鳴りつけた。 ブチ切れたということは、電話の相手はさらわれた友達なのだろうか。 『なんか金髪の女の子も一緒に消えたらしい! その子に手ぇ出したらテメェの髪を首ごと切ってやるからな!  近くにいるなら声を聞かせろ!』 物騒なことを平気で言ってのける。 周囲の客が私たちに白い目を向ける。 その視線がとてつもなく痛い。 「はい、友達は一緒にいるってさ」 さんざん大声で騒いだ後、何もなかったようにスマホを差し出した。 『なっちゃん、大丈夫?』 不安そうな声が聞こえた。 姿は見えなくとも、聞き慣れたそれに安心感を覚える。 「キスカ! よかった! 急に消えたから、どこに行ったかと思った!」 『ごめんね……迷惑かけちゃって。 立華さんに助けてもらったんだ。うん、すごくいい人だよ』 「今どのあたりにいるの? ずっと電話かけてるのに、なかなか出ないし」 『えーっとねー……なんて言えばいいんだろう。 まず、モールにはいないんだけど。 そうだ、周りのお店とかどうなってる?』 「お店? 普通に営業してるけど」 『じゃあ、やっぱりそうなんだ……』 ひどく落ち込んだ声が聞こえる。 この様子だと、停電の間にどこかへ連れ去られたらしい。 『初めまして、私が立華です。 さっきお話ししたように、フォリアさんは私の隣にいます。 ただ、想像以上のことが起きて、ショックを受けているみたいです。 とにかく一度、カインと代わってもらえませんか? 彼なら、多少の事情も分かると思いますから』 落ち着いた声の男性と代わった。 この人が立華さんか。イメージと全然結びつかない。 カインさんの方を見ると、黙って手を差し出した。 「分かりました。代わります」 スマホを返すと、近くに来るよう手招きされる。 「おい、どーなってんだ?」 『私が言いたいくらいだよ、そのセリフ』 不審そうに視線を向けてきたり、見ないふりをして立ち去ったり、忙しそうに歩いている人はいても、さらわれた人を探している様子はない。 「見た感じ、割と平和そうなんだけどな」 『そう……なら、そっちにいるんじゃない? 私たちをこっちに飛ばした犯人』 「飛ばした?」 『私たちは今、別世界にいるんだよ』 その言葉は、私の予想をはるか上を超えていた。
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