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思っている以上に、ひどいことになっていた。
それでも、カインさんは皮肉っぽく笑って答える。
「へえ? 女の子と異世界転生とか、まんま小説の主人公じゃねえかよ。
よかったな、ハーレム作れるじゃん」
『転生じゃない、転移させられたんだよ。
人を勝手に殺すな。その言い方もやめろ。
私たちは動けそうにないから、そいつを探してほしいんだ』
男の人がいるから大丈夫かなと思ったけど、そうでもないらしい。
動けないということは、どこかに囚われているのだろうか。
「なるほど。何か特徴とかあるか?」
『どうも紛争地帯にいるみたいなんだよね。
銃弾っぽいのも見つけたから、まちがいないと思う』
「オッケー。何か動きがあったら、連絡する」
それだけ言って、電話を切った。
スマホをポケットにしまった。
「今、別の世界にいるって……」
「どうにも俺たちの考えているより、ひどいことになっているらしいな」
「こっちの世界に犯人がいるかもしれないって、言ってましたよね」
「急に携帯が繋がったのと何か関係あるのかもな」
電話ができたということは、機器自体は没収されているわけではない。
今まで電話ができなかったのは、向こうの世界が閉ざされていたからか。
「……いい度胸じゃねえか。受けてたってやる。
紛争地帯。なら、限られてくるか」
深呼吸をして、ぶつぶつと呟き始める。
にらみつけながら、歩き回る。
私はというと、彼の後をひたすらについて回るだけだ。
怪しい人がいないか、周囲に目を凝らす。
近くの大型店舗に入り、うろうろと探し回る。
一向に返信は来ないし、繋がりやすくなったわけでもない。
今は何をしているのだろうか。
左手が何かに当たった。
たまたま下ろしていただけだが、そこには何もない。
じっと見ながら、今度は両手で触る。
触れた先に柔らかい何かがある。
つかみ取り、上に持ち上げる。
透明な布の下に女性が二人、隠れていた。
迷彩服のような独特な柄の服を身に着けている。
「うわぁ……やっぱり見つかっちゃった」
金髪の女性が苦笑しながら、顔を上げる。
「カインさん! ここ! ここです! いました!」
近くを探していたカインを呼ぶ。
足元の女性二人にぎょっとして、変な声を出した。
「こんなの初めて見たんだけど、知ってたのか?」
「いえ、たまたま手が当たったんです」
二人はしゃがんだまま、こちらを見上げている。
隣の茶髪の女性はため息をついた。
「私たちの完敗ね。ていうか、作戦そのものがダメだったかな」
「じゃあ、お前らがアイツらを連れて行ったってことでいいんだな?」
「そうよ」
「よし、まとめて捕獲。ついてこい」
本当に犯行を認めたようで、私の前を歩く。
周囲の人たちにはどう見えているんだろう。
先頭を歩くカインさんは不良っぽいし、その後ろを歩く二人も着ている服のせいで部下にしか見えない。しんがりを務める私は、何なのだろうか。
なんだかよく分からないことになっている。
大型店舗を離れ、フードコートに入る。
一番奥のテーブル席を陣取った。
壁際に設置されているソファに二人が座る。
冷静に見ると、金髪の人は整った顔をしていて美人なのが分かる。
青色の目は深い海の色みたいで、ここにいない友達と同じ色をしていた。
ただ、険しい表情ですべてが台無しだ。
「それで、お前ら何が目的だ?
あのロン毛を連れてっても何もならないし、友達もさっさと解放してくれ。
巻き込まれてかわいそうなんだよ」
沈黙が下りてから、ゆっくりと話し始める。
「その場しのぎでもいいから、どうにかしたかったの」
「その場しのぎ、ねえ?
紛争地帯にいるとか何とか、アイツは言ってたけど」
「紛争地帯……その通りね。殺戮されてるのはまちがいない」
「なんだ、被害者ヅラか?
お前らのやってることは犯罪そのものだってのにな」
いちいち喧嘩腰で対応するのはなぜだろうか。
話が進まないから、正直やめてほしい。
「ちゃんと話を聞いてみませんか?
このままだと、分かることも分からないと思うんです」
「結局、コイツらの正体が分からないことにはどうにもできないか」
めんどくせえ。
一言吐き捨てたのだった。
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