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「倉内さん。美海ちゃんは才能ありますし、中学生でも十分通用しますよ?」
彩月ちゃんの言葉に、お父さんは腕を組んでため息をついた。お母さんはお父さんがこれから何を言い出すのかとハラハラしながら、黙ってみていた。
「ほお。じゃあ、十分通用する理由をあげろよ」
このときもお父さんの発言は容赦なかった。
「そんなの美海ちゃんの絵を見ればわかるじゃないですか。絵は中学生とは思えないくらい上手いですし、色の作り方なんて大人顔負けですよ? それを中学生が描いていると知ったら誰だって買おうと思うかと」
お父さんは私を見た。私もこのときは反抗期で、何も共感なく反対するお父さんはもう敵だった。
「つまり買おうと思う理由が、子供だからってことか?」
「いやいやいや。もちろんそれもありますけど、今からこうやって大人と並べるんだから、将来性も含めて通用するという話です」
お父さんの顔は怖いのに、彩月ちゃんは元々彼らの部下だったからか、負けじと言い返す。
「将来性か」
「……将来性を見るなら、ちょっと時期尚早かな」
やっと黙っていたお母さんが口を開く。
「美海はなんで彩月ちゃんと個展したいの?」
「それは、楽しそうだから」
「……そうだよね。楽しそうだよね」
まだ絵画を売るという意味をよくわかっていなかったから、簡単に楽しそうという言葉を出した。絵画教室で行う展覧会を想像していた。
「個展ってお金が掛かるの。お金を掛けて開くってことは、そこに飾る絵は価値がないと釣り合わない。じゃあ、価値があったとして売れるかというとそうではない。お客さんの感性とか趣味とかが混ざってくる」
当時はお母さんの言っていることがよくわからなかった。お客さんの感性が混ざったら、どうなのか。趣味が違ったら何なのか。まるでわかっていない。
「楽しいだけじゃない。評価されて一喜一憂するの。仕事になるんだよ?」
評価という言葉に小学6年生のときのことが蘇る。嫉妬されて、贔屓といういわれのない評価をもらって、絵を描けなくなった。お母さんは、私が思い出したのをわかってか、鞄からごそごそと用紙を出してきた。
「これね。会社で画家のリストを作成するときに、画家さんに書いてもらう用紙」
「リスト……」
そこには履歴を描く欄があった。基本的なプロフィールはもちろん、大学や所属する協会名、今まで出た絵画展、コンクールの受賞作一覧……と、たくさん自分をアピールするものがある。
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