46人が本棚に入れています
本棚に追加
私はお母さんの分の料理を出す。照り焼きチキン。お母さんは目を輝かせた。
「美味しそう!!」
はぁ、とため息を着きながら、お父さんはビールを飲む。お母さんは、照り焼きチキンを美味しそうに頬張った。
「そういや剣崎さんはもう知ってんの?」
「知ってるよ! 理絵ちゃんが電話したら、剣崎さんからすぐに電話あった。心細いだろうからって、理絵ちゃんは話せないけど一方的に喋ってた。めちゃくちゃ嬉しそうだったよ。それ聞いて、理絵ちゃんもホッとしてたし」
ニヤニヤしながら話すお母さんは、本当に至福そう。というか、すでに酔っていると思う。
「そりゃ良かったよ」
「2人は仲直りできたの?」
藪から棒に今度は私とお父さんの話になった。
「うーん」
「そっか。良かった」
お母さんはビールを飲みながら、私を見た。
「私、覚悟が足りていないんだと思った」
「ん?」
チキンを頬張りながら、首を傾げるお母さんに頷く。
「海外に行く覚悟。お母さんだったら、もし黄金の勝利のディーラーになるために海外に行く方が近道と言われたら、海外に行くよね? 私、まだまだ覚悟足りていないんだと思って」
そう言われたお母さんは、ピンと来なかったらしい。目をぱちくりさせる。
「美海に必要な覚悟って、海外に行くことなの?」
「……え?」
「……あぁ。そこに気づいてないのか」
お母さんは変なことを言うと、にやりとした。
「じゃあ、ヒントね。私はきっと海外に行かなかったと思うよ」
「……え?」
「だって、私、黄金の勝利のディーラーになるのに、支店長が近道って言われたけど断ったくらいだよ?」
そういえば、お母さんは支店長を断ったと言っていた。
何故断ったかと聞けば、そういう責任は取れないからと言っていた。今考えると変な話だ。お母さんの仕事を目の前で見ているからわかる。お母さんは責任感があるし、その上、どの支店長よりも支店長の仕事ができる。
「え、どうして断ったの?」
「黄金の勝利も大事だったけど、私は湊翔と一緒にいたいとも思ったから」
目を見開く。というか、口もポカンと開いた。
私は今まで盛大にお母さんを誤解していたのではないだろうか。仕事一番だと思っていたのに、お父さんと一緒にいたかったなんて……。
「話しちゃうよ?」
「お前、ここまで話しておいて、話しちゃうよじゃねぇよ。ここで終わったら変な誤解招くだろ。この酔っぱらいがよ」
お父さんは、はぁとため息をつく。お母さんはニコニコすると私に目を向ける。
最初のコメントを投稿しよう!