十九章 理由

16/50
前へ
/573ページ
次へ
 私はお母さんの分の料理を出す。照り焼きチキン。お母さんは目を輝かせた。 「美味しそう!!」  はぁ、とため息を着きながら、お父さんはビールを飲む。お母さんは、照り焼きチキンを美味しそうに頬張った。 「そういや剣崎さんはもう知ってんの?」 「知ってるよ! 理絵ちゃんが電話したら、剣崎さんからすぐに電話あった。心細いだろうからって、理絵ちゃんは話せないけど一方的に喋ってた。めちゃくちゃ嬉しそうだったよ。それ聞いて、理絵ちゃんもホッとしてたし」    ニヤニヤしながら話すお母さんは、本当に至福そう。というか、すでに酔っていると思う。 「そりゃ良かったよ」 「2人は仲直りできたの?」  藪から棒に今度は私とお父さんの話になった。 「うーん」 「そっか。良かった」  お母さんはビールを飲みながら、私を見た。 「私、覚悟が足りていないんだと思った」 「ん?」  チキンを頬張りながら、首を傾げるお母さんに頷く。 「海外に行く覚悟。お母さんだったら、もし黄金の勝利のディーラーになるために海外に行く方が近道と言われたら、海外に行くよね? 私、まだまだ覚悟足りていないんだと思って」  そう言われたお母さんは、ピンと来なかったらしい。目をぱちくりさせる。 「美海に必要な覚悟って、海外に行くことなの?」 「……え?」 「……あぁ。そこに気づいてないのか」  お母さんは変なことを言うと、にやりとした。 「じゃあ、ヒントね。私はきっと海外に行かなかったと思うよ」 「……え?」 「だって、私、黄金の勝利のディーラーになるのに、支店長が近道って言われたけど断ったくらいだよ?」  そういえば、お母さんは支店長を断ったと言っていた。  何故断ったかと聞けば、そういう責任は取れないからと言っていた。今考えると変な話だ。お母さんの仕事を目の前で見ているからわかる。お母さんは責任感があるし、その上、どの支店長よりも支店長の仕事ができる。 「え、どうして断ったの?」 「黄金の勝利も大事だったけど、私は湊翔と一緒にいたいとも思ったから」  目を見開く。というか、口もポカンと開いた。  私は今まで盛大にお母さんを誤解していたのではないだろうか。仕事一番だと思っていたのに、お父さんと一緒にいたかったなんて……。 「話しちゃうよ?」 「お前、ここまで話しておいて、話しちゃうよじゃねぇよ。ここで終わったら変な誤解招くだろ。この酔っぱらいがよ」  お父さんは、はぁとため息をつく。お母さんはニコニコすると私に目を向ける。
/573ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加