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「もちろん! けれど、十和のお口に合うかどうか……」
「何言ってんだ。何度か食べてるだろ」
十和が吹き出す。そう言えば、そうだった。
「今から行ける? それとも、絵は中途半端? 」
「ううん。全く何も描いていないよ。だから、準備してくる」
私は早足で、アトリエを閉め、白いダッフルコートを着た。最近は寒くなってきて、コートは欠かせなくなった。
そういえば、十和も紺色のダッフルコートだ。なんだか、お揃いみたいで気恥ずかしくなるけれど、寒さには負けた。着てくると、十和も同じ事を思ったらしく、私のコートを見つめる。
「まあ、被ってもおかしくないか」
「バカップルみたい?」
「バカップルだったら、色も形も一緒だろ。行こう」
手を差し出す十和の手を握る。外は寒かったはずなのに、温かい。
「寒くなかったの?」
聞くと、十和はもう片方の手をポケットに突っ込んで、カイロを取り出した。
「持ってきた。ほら」
そのまま十和は、私にカイロを寄越してくれた。温かい。ぬくもりを感じて、心までポカポカになった。
そのあとは、買い出しをして帰る。部屋は冷えきっていて、すぐに暖房をつける。いや、それでも、寒いなぁ……。それに、みんなが来るまでまだ時間はある。
「十和、部屋行こ?」
荷物を冷蔵庫に詰めていた十和は途端に硬直した。
「はい?」
「だから、私の部屋。ちょっと、温まろうよ」
十和は怪訝な顔で、十和のコートを掛けていた私を見つめる。
「……何考えてる?」
「2人で布団に入ろう? 十和も眠いと思うし、少し休憩しようよ。その方が私も温かくなる!」
十和は私を呆れた表情で見ると、はぁ、と大きくため息をついた。
「俺は勝手にソファで寝かせてもらう」
「どうして? 昔も一緒に寝ていたことあったよね?」
バタンと冷蔵庫の閉まる音が聞こえる。手が滑ったのかと思ったけれど違った。
十和は怖い顔で私の手を引く。
「と、十和???」
黙ったまま、私は自分の部屋に入れられた。
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