十九章 理由

20/50
前へ
/573ページ
次へ
「もちろん! けれど、十和のお口に合うかどうか……」 「何言ってんだ。何度か食べてるだろ」  十和が吹き出す。そう言えば、そうだった。 「今から行ける? それとも、絵は中途半端? 」 「ううん。全く何も描いていないよ。だから、準備してくる」  私は早足で、アトリエを閉め、白いダッフルコートを着た。最近は寒くなってきて、コートは欠かせなくなった。  そういえば、十和も紺色のダッフルコートだ。なんだか、お揃いみたいで気恥ずかしくなるけれど、寒さには負けた。着てくると、十和も同じ事を思ったらしく、私のコートを見つめる。 「まあ、被ってもおかしくないか」 「バカップルみたい?」 「バカップルだったら、色も形も一緒だろ。行こう」  手を差し出す十和の手を握る。外は寒かったはずなのに、温かい。 「寒くなかったの?」  聞くと、十和はもう片方の手をポケットに突っ込んで、カイロを取り出した。 「持ってきた。ほら」  そのまま十和は、私にカイロを寄越してくれた。温かい。ぬくもりを感じて、心までポカポカになった。  そのあとは、買い出しをして帰る。部屋は冷えきっていて、すぐに暖房をつける。いや、それでも、寒いなぁ……。それに、みんなが来るまでまだ時間はある。 「十和、部屋行こ?」  荷物を冷蔵庫に詰めていた十和は途端に硬直した。 「はい?」 「だから、私の部屋。ちょっと、温まろうよ」  十和は怪訝な顔で、十和のコートを掛けていた私を見つめる。 「……何考えてる?」 「2人で布団に入ろう? 十和も眠いと思うし、少し休憩しようよ。その方が私も温かくなる!」  十和は私を呆れた表情で見ると、はぁ、と大きくため息をついた。 「俺は勝手にソファで寝かせてもらう」 「どうして? 昔も一緒に寝ていたことあったよね?」  バタンと冷蔵庫の閉まる音が聞こえる。手が滑ったのかと思ったけれど違った。  十和は怖い顔で私の手を引く。 「と、十和???」  黙ったまま、私は自分の部屋に入れられた。
/573ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加