十九章 理由

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「そこに寝ろって?」  十和の声は低い。 「え? うーん……」 「ベッドで恋仲の男女が寝たらどうなるか想像ついてる?」  そう言われて、やっと気づく。ハッと顔を上げると、十和はしゃがんで頭を抱えた。 「ご、ごめん。けれど、私、そういうつもりじゃ──」 「頼むから、俺の気持ち掻き乱さないでくれ……」 「……俺の気持ち?」 「……こういうこと」  ぼそりと言った十和は、ぬくっと立ち上がると、私の左肩を掴んだ。互いの唇と唇が触れあう。急なことに驚いたけれど、少しホッとしている私がいた。  十和は少し遠慮して、唇をすぐに離そうとした。……まだ。もう少し。そんな気持ちが勝って、首に腕を絡めると「は?」と言って、十和は離れそうとする。それをきっかけに2人ともバランスを崩してしまい。最終的には2人してベッドに倒れ込む。  こないだ倒れたときは、私が馬乗りになっていたけど、今度は十和が馬乗りになっていた。 「……十和?」  十和は見たこともないくらい、顔を真っ赤にしていた。手の甲で口を押さえている。 「マジで我慢できなくなるからやめろ。俺がどれだけ我慢してると思ってるんだ」  どうしよう。そんな顔で、そんなこと言われてしまっては、すごくキュンとする。我慢なんかしなくて良いのに。私は十和の目を見つめる。 「おい、本当に──」 「私はもっと触れて欲しいよ……?」    バクバクと鳴る心臓。呆れられるかと思ったけれど、十和は目を見開きながら瞳を揺らす。十和の頬に触れようと右手を伸ばすと、ガシッと、けれども痛くないように右手を掴まれた。  彼は、そのまま唇を重ねてきた。私は素直に受け入れる。  十和の頬に解放された右手で触れると、十和はそれに応えるようにさらに深く私にキスをしてきた。そのキスが心地よくて、フワフワしていると、十和の手が私の服をめくって、お腹に伸びてきた。  あ、これは……。  どういうことか頭ではわかっているけれど、私は正直流されて良いと思っている。ずっと隣にいるのに、十和の理性を失っているところなんて初めて見るし、そのくらい私を求めてくれているという高揚感もある。  熱帯びた瞳にとても惹かれる。  そのまま、求められるまま、十和の手が私の胸まで伸ばされようとした刹那、家のインターホンが鳴った。十和と私は固まる。そして、顔を見合わせた。 「……危な」  と言って、十和は私から離れる。そして、ベッドに座った。
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