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「ほら、インターホン鳴ってる」
「あ、う、うーん……」
微妙な空気のまま、私は部屋を出る。そのうちにもう一度インターホンが鳴った。
あ、百合果だ。
「百合果?」
「良かった! 帰ってきてた!!」
インターホンから元気な声を聞き、途端に現実に戻ってきた。急いで、エントランスのドアを開ける。玄関まで行こうと廊下を通ると、少し疲れた様子の十和が壁に寄り掛かっていた。
「今回ばかりはあいつに感謝するか。マジ、ごめん」
「え、嫌じゃなかったけれど?」
「……俺、理性的な奴だと思ってたんだけどなー」
はぁっとため息をつく十和は、自力で止まれなかったことを反省し、ショックを受けているみたいだった。とはいえ、私も止めるつもりはなかった。謝られる必要もない。
これは、また、触れてくれなくなりそうだなぁと無意識に考えた。
玄関のベルが鳴る。ドアを開けると、百合果と──浜口先輩がいた。……そう言えば、文化祭で再会してから、よく会うようになり、最近付き合い始めたと言っていた。
「こんにちは」
「あまり学校で会わないよね」
「そういえば、そうですね」
浜口先輩とそんな風に話していると、十和が百合果以外がいるのに気づいたらしく、後ろに来た。どんな反応するのかはわからないけれど、とりあえず玄関に入ってもらう。
「……っ!?」
十和は目をぱちくりさせると、浜口先輩の隣で幸せそうに笑顔を見せる百合果を見た。開いた口が塞がらない様子だ。浜口先輩は頬を掻きながら、十和を見た。
「ごめん。学校で言いづらくて……」
「いや、それは別に……。てか、お前にそんな感情あったの?」
十和はまさか百合果が誰かと付き合うとは思っていなかったらしい。自分の友達と付き合っている云々前に、百合果に恋愛感情があったことに驚いている。
「兄ちゃんにそんなこと言う必要ある?」
「……ないな」
「山やんと美海が相談乗ってくれてたんだ!」
にこりと言う百合果に、十和は私を見た。
「一時期こそこそしてたのってこれか」
「うーん」
苦笑する。十和はもうどうでもよくなったらしく、それ以上は突っ込んで来なかった。
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