十九章 理由

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「あ、浜口先輩も入ります?」 「え、いいの? 俺、百合果を送っただけなんだけど……」 「良いですよ。なんなら、夕飯も……」 「夕飯はまずくないか? 俺たちだけなら良いけど、マジで、山やん以外はビックリする。父さんも何言い出すかわからないし」 「あ、そっか……」 「ま、親たちが帰ってくる前なら問題ないだろ」  十和の言葉に私は頷く。折角来てもらって申し訳ないので、浜口先輩にもあがってもらった。 「何飲みますか?」 「あー、じゃあ、コーヒーを」 「ホットで良いですか?」 「あ、うん」  台所へ行って、客用のコーヒーカップを出した。 「美海、私はコーラ! 買ってるよね?」 「もちろん」 「いや、美海に頼まないで自分でやれよ」 「えー、じゃあ、兄ちゃんがやってよ」  全くいつもの調子の百合果は恥じらいを知らないのだろうか。十和にはあまりないけれど、剣崎さんの前だったら、私はきっと張り切ってできる女を演じている。  十和はため息をつきながら、立ち上がり、冷蔵庫から自分の分のお茶と500mlのコーラーを出した。そして、百合果の前にグラスとコーラーを置いた。自分の前にお茶を置く。  その光景に浜口先輩は驚いたらしく、十和をまじまじと見つめる。 「他人の冷蔵庫、そんな簡単に開けられるのか」 「……まさか。倉内家しかやらない。昔、いちいち断りながら取ってたら、煩わしいから勝手にしていいって山やんと美海の父親に言われた。うちも面倒だから、倉内家が坂根家来ても同じ」  そう十和が応えると、浜口先輩は感心したように「へぇー」と呟く。 「ほんと、家族で仲いいんだな」 「まあな」  お湯が沸いて、インスタントコーヒーを淹れる。私もついでにコーヒーにした。 「どうぞ」 「どうも」  ぺこりとすると浜口先輩は、コーヒーを自分のところに引き寄せた。 「……」 「……」 「……え、俺が百合果と付き合ってることは突っ込まないの?」  お茶を飲んで落ち着いている十和に、耐えきれなくなって浜口先輩が聞いた。 「俺が突っ込む話じゃない。このモンスターを受け入れる奴がこんな近くにいたのは驚いてるけど」 「モンスター……。いや、百合果、普通に可愛いけど」 「兄ちゃんに言っても無駄だよ。私は浜口さんにそう思われるだけで嬉しいから」 「そ、そう?」  ……何を見せられているんだろう。  私がそう思うのだから、兄の十和は余計にそう思っているような気がする。  けれども、なんだか既視感があるような……。あ、樹里ちゃんと坂根さんだ。
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