十九章 理由

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「私としては早く美海の子ども見たいけどね」 「湊翔さんに殺される」 「いや、この発言は山やんに殺られる」  手で扇ぎながら、樹里ちゃんは靴を脱いだ。慣れたように、リビングに入ると、樹里ちゃんは浜口先輩をまじまじと見つめた。 「……あれ、こないだの文化祭の……」 「お、お邪魔しています……」  樹里ちゃんの家でもないのに、浜口先輩は小さく会釈した。 「なんだ。友達が来てたんだ」 「私の彼氏」  この際、友達で通せばいいのに、百合果は間髪入れずに紹介した。浜口先輩は焦って、気を付けをすると、謝るように腰を90度以上曲げて頭を下げる。 「ゆ、百合果さんとお付き合いしてます!! 浜口と申します!!」 「……え?」  樹里ちゃんは驚いた顔で目を見開く。 「百合果、彼氏いたの?」 「うん」 「……LIKEとLOVEの違いわかってる?」 「ヒドイ。わかるよ、そのくらい!」  十和と同じ反応をされ、百合果は怒る。私は面白くて、思わず下を向き肩を揺らした。 「こんな娘だけど、よろしくね」 「は、はい。いや、こちらこそ! じゃあ、俺はこれで!!」  ぺこりと頭を下げて、そそくさと荷物をまとめ、浜口先輩は逃げるように帰っていく。 「送ってくる!」  送られたはずの百合果は、今度は浜口先輩を送りに行ってしまった。ぽつんと残された私と十和と樹里ちゃんは顔を見合わせる。  なんだか、ちょっと面白くて、お互い吹き出した。 「美海知ってたの?」 「うーん。お母さんも知っているよ」 「なるほど、山やんに相談してたわけか。てことは、父親たちが知らないわけね」  そんなことを言いながら、 樹里ちゃんは冷蔵庫を開く。まだ飲み会が始まってもいないのにビールを取り出した。 「もう飲むのか?」 「飲むよ? どうせ飲むなら、いつから飲んでも同じじゃん」  よくわからない理論を言われて、私と十和は顔を見合わせる。 「……なんかあった?」  十和は首をかしげながら、樹里ちゃんを見た。 「いや、なんか変な感じがして」  樹里ちゃんが座ったところで百合果が戻ってきた。樹里ちゃんはちらりと百合果を見ると、肩で息を吐きながらビールに口をつけた。
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