46人が本棚に入れています
本棚に追加
「私としては早く美海の子ども見たいけどね」
「湊翔さんに殺される」
「いや、この発言は山やんに殺られる」
手で扇ぎながら、樹里ちゃんは靴を脱いだ。慣れたように、リビングに入ると、樹里ちゃんは浜口先輩をまじまじと見つめた。
「……あれ、こないだの文化祭の……」
「お、お邪魔しています……」
樹里ちゃんの家でもないのに、浜口先輩は小さく会釈した。
「なんだ。友達が来てたんだ」
「私の彼氏」
この際、友達で通せばいいのに、百合果は間髪入れずに紹介した。浜口先輩は焦って、気を付けをすると、謝るように腰を90度以上曲げて頭を下げる。
「ゆ、百合果さんとお付き合いしてます!! 浜口と申します!!」
「……え?」
樹里ちゃんは驚いた顔で目を見開く。
「百合果、彼氏いたの?」
「うん」
「……LIKEとLOVEの違いわかってる?」
「ヒドイ。わかるよ、そのくらい!」
十和と同じ反応をされ、百合果は怒る。私は面白くて、思わず下を向き肩を揺らした。
「こんな娘だけど、よろしくね」
「は、はい。いや、こちらこそ! じゃあ、俺はこれで!!」
ぺこりと頭を下げて、そそくさと荷物をまとめ、浜口先輩は逃げるように帰っていく。
「送ってくる!」
送られたはずの百合果は、今度は浜口先輩を送りに行ってしまった。ぽつんと残された私と十和と樹里ちゃんは顔を見合わせる。
なんだか、ちょっと面白くて、お互い吹き出した。
「美海知ってたの?」
「うーん。お母さんも知っているよ」
「なるほど、山やんに相談してたわけか。てことは、父親たちが知らないわけね」
そんなことを言いながら、 樹里ちゃんは冷蔵庫を開く。まだ飲み会が始まってもいないのにビールを取り出した。
「もう飲むのか?」
「飲むよ? どうせ飲むなら、いつから飲んでも同じじゃん」
よくわからない理論を言われて、私と十和は顔を見合わせる。
「……なんかあった?」
十和は首をかしげながら、樹里ちゃんを見た。
「いや、なんか変な感じがして」
樹里ちゃんが座ったところで百合果が戻ってきた。樹里ちゃんはちらりと百合果を見ると、肩で息を吐きながらビールに口をつけた。
最初のコメントを投稿しよう!