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「あーんな小さかったのに」
「……」
「何をやらせても、あれもヤダ、これもヤダってすぐ飽きて」
「……」
「それがいつの間にか山やん追いかけて、自分のやりたい道選んで、合格」
樹里ちゃんは十和を見上げた。十和は黙ったまま、母親を見つめた。
「母親として何かできたことってそんなないから、十和はこんな話されても別に何とも思わないかもしれないけど、私は本当に嬉しい。私、これから山やんに家事教えてもらう予定だから、家のことは気にせず、自分の夢に向かって真っ直ぐ進みなさい」
ビールを飲みながら言う、どこまでも母親らしくない樹里ちゃん。これはきっと儀式だ。
樹里ちゃんが、十和から子離れする儀式。
十和は大学に入ると、すぐにバイトを始める。家事は今まで通り出来なくなる。今まで全部十和に頼っていた部分は、これから坂根家で何とかしなければならない。
十和は、はぁっとため息をつく。そして、頭を掻いた。
「……母さんに料理を任せられるわけないだろ」
「……え?」
「くそまずい料理食べるなら、多少無理しても俺が料理作る」
「……ひ、酷くない???」
彼女はダンと、飲んでいたビールをテーブルに置く。
「じゃあ、作れる自信ある?」
「う、それは……」
「洗濯物と掃除は頼みたい。料理は趣味だからやらせて。正直、美海の弁当はまだ作ってたいし」
一年間で終わりだと思っていたのに、どうやら十和はまだまだ私にお弁当を作ってくれる気らしい。……いや、おそらく私へのお弁当は口実だ。
家族のためというと、樹里ちゃんに負担が掛かるから。
だから、私のためだと敢えて強調している。
「十和……」
「俺はこの家族が嫌だと思ったことは一度もない」
「……」
「山やんは親みたいなもんだけど、産みの親は坂根樹里。親らしくないのは良いところだろ?」
何を今さら、というように十和は肩を竦めた。
「だから、俺が料理するから、母さんはそれを見て覚えて」
突き放さないところは、実に十和らしい。十和の言葉に感動したのか、樹里ちゃんは十和に飛び付いた。
「あんた、ほんと、私たちの突然変異だわ!!」
「お、おい、やめろ!」
引き離そうとする十和に、私と百合果は顔を見合わせて笑った。
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