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「手伝ってくれてありがとうね」
「一応、こう見えてキュレーター見習いなんだけど」
苦笑しながら、十和は私を見た。十和の手には今回の企画で飾る2枚の絵。どちらも箱の中に入っている。いよいよ12月になって『艶麗のビーナス』が始まる。今日はその準備だ。
画廊は地下にあって、階段を降っていくと、電子音でチリンチリンと私たちが来たことを知らせた。すぐさま、誠さんが駆け寄ってくる。
「2人ともいらっしゃい」
「お世話になります」
頭を下げると、誠さんは小さく口角をあげて、「こちらこそ」と返してきた。中には私以外にも、企画に参加する人が準備をしている。
すらりと身長が高く、モデルさんのような人だった。髪は男の人よりも短いベリーショート。おそらく、20代後半だと思う。
「こんにちは」
早速話しかけにいくと、ギロリと睨まれた。慌てて誠さんが間に入る。
「秋風さん。こちら、今回一緒に参加する美海さん。それから、俺のキュレーター仕事を手伝ってくれる坂根くん」
「……ああ、例のちやほやされてる新人ね」
……え?
まさか、急にそんなことを言われると思っていなかった。固まっていると、秋風さんは自分の絵を取り出した。私のことはもう見てくれない。
「ここはお遊びでくる場所じゃない。あんなスーパースターとか言われてる中途半端な男に好かれたからって、売れる世界じゃないの。わかる?」
スーパースター……、おそらく剣崎さんのことだ。
「私、お遊びでは来ていません。それに、剣崎さんは中途半端な人でもありません」
ムッとして返す。秋風さんは、私を鼻で笑う。誠さんはどうにか止めようとするけれど、何も思いつかないらしく、ワタワタしていた。
「中途半端でしょ。スーパースターだから売れてるだけで、あんなの画家じゃない」
「なんでそんなこと言うんですか?」
「事実を言っただけだけど?」
「な……」
この人は一体、どうしてこんなに意地悪なことを言うのだろう?
言い返す言葉を探していると、スッと十和が入ってきた。
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