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「ここでいない人間について言い合っても仕方ないですね」
ド正論をかまされて、秋風さんは面食らったように十和を見た。まさか唐突に入ってくると思わなかったらしい。私も頭が冷える。
そうだった。私は企画に参加しに来たわけで、この人と言い合いに来たわけではない。
「俺、ここでキュレーターの手伝いをするので、よかったら絵を見せてもらってもいいですか? 顧客が来たときにちゃんと説明できるようにしたいので」
「……あんた高校生でしょ?」
「はい。来年から式蔵美術大に入学します。画商志望なので、色んな絵に会いたいと思っています。ぜひ見せてください」
口角をあげる十和に、秋風さんは「ふーん」と言いながら、自分の絵を渡す。十和はすぐには受け取らず、鞄から宝飾グローブを出し、それをつけてから手に取った。
秋風さんは目をぱちくりさせる。
「わざわざグローブを……」
「え、当然ですよね? 誠さんもつけると思いますけど」
そうやって、十和はハラハラとしていた誠さんを見た。誠さんは、「も、もちろん」と大きく頷いた。
「いや、だって、高校生でしょ?」
「高校生は関係ないです。それじゃ、拝見します」
十和は何食わぬ顔で、絵を見つめた。
彼女の絵は16,7歳くらいの女の子の絵。大きなリボンのついたハットを被った女の子の表情を描いている。鉛筆画なのに、色の強弱がすばらしい。鉛筆の艶と滑らかさを上手く使って、少女が女性になりつつある姿を描いていた。
絵は二枚。一枚は斜め上を向きながら、こちらに瞳を流していて、もう一枚は正面からこちらを見つめている。どちらも同じ女の子だ。
「艶かしいですね。大人になっていく様子がよくわかります」
「どっちの方が好き?」
「この斜め上を向いている絵ですかね。正面を向いた絵よりも艶やかで、けれど少女のあどけなさが少し面影で残っている。そして、何よりも躍動的。鉛筆の光の加減もあって、色んな角度から色んな表情が見られそうです」
そこまで答えると、秋風さんは誠さんを見た。
「本当に高校生?」
「そう話していましたけど……」
「……」
「あ、彼の師匠は、山崎愛海です」
山崎愛海の名前を出した途端に、彼女の目が光る。
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