十九章 理由

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「え、あの画商……?」 「そうですよ。たまに色々と教えてもらってるらしいですし、彼の両親も画商です」 「ふーん」  そう言ってはいるけれど、明らかに秋風さんの目の色が変わっている。 「じゃあ、本気で目指してるんだ?」 「はい」  秋風さんは口角を上げる。そして、手を差しのべた。 「秋風紅葉。今回の企画に力を入れてる。売れるように力を貸して」 「もちろんです」  握手をする2人を見て、少しつまらない気持ちになる。けれども、ここで余計な気持ちを持っても仕方がない。そもそも私は、十和と違って、人とコミュニケーション取ることが苦手だ。私は、十和の横に置いてある箱をこっそり取った。 「誠さん、私は……」 「美海ちゃんは、ここ」  私の場所は入り口から入って正面に広がる壁の右端だった。10号の絵が横に10枚くらい並ぶ広さ。誠さんが寄ってきて、宝飾グローブで飾ってくれた。 「ごめんね。端にしちゃって」 「いいえ。場所は言い訳にならない。どんな場所でも、売れる絵は売れるってお母さんが言っていました」  そういうと誠さんは頷く。 「だから、端にした」 「え?」 「美海ちゃんのはどこ置いても売れる気がして。あと、周りの目もあって」  ごめん、という素振りを見せる誠さんに首を横に振る。正直、場所は全然気にしていない。それはどんな場所だって、たとえ名前を隠していたって、売れる絵は売れるのを知っているからだ。    剣崎翔琉の絵は、きっと、こうやって端に置いたって輝いて見える。  名前を隠していたって売れる。 「にしても、やっぱり素晴らしい絵を描くね」 「有難うございます」 「美しい中に、人間味もあって、けど幻想的。正直、お金があったら、俺が欲しい」 「慰めですか?」 「まさか。慰めで言ったら、失礼」  やっと少し余裕を持てるようになって、私は口角を上げる。慰めで言ったら、失礼……か。この人も画商だなぁ。  そんなところで、また人が入ってきた。チリンチリンという音とは似合わない派手な青い髪……あ、幸之助さんだ。
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