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「え、あの画商……?」
「そうですよ。たまに色々と教えてもらってるらしいですし、彼の両親も画商です」
「ふーん」
そう言ってはいるけれど、明らかに秋風さんの目の色が変わっている。
「じゃあ、本気で目指してるんだ?」
「はい」
秋風さんは口角を上げる。そして、手を差しのべた。
「秋風紅葉。今回の企画に力を入れてる。売れるように力を貸して」
「もちろんです」
握手をする2人を見て、少しつまらない気持ちになる。けれども、ここで余計な気持ちを持っても仕方がない。そもそも私は、十和と違って、人とコミュニケーション取ることが苦手だ。私は、十和の横に置いてある箱をこっそり取った。
「誠さん、私は……」
「美海ちゃんは、ここ」
私の場所は入り口から入って正面に広がる壁の右端だった。10号の絵が横に10枚くらい並ぶ広さ。誠さんが寄ってきて、宝飾グローブで飾ってくれた。
「ごめんね。端にしちゃって」
「いいえ。場所は言い訳にならない。どんな場所でも、売れる絵は売れるってお母さんが言っていました」
そういうと誠さんは頷く。
「だから、端にした」
「え?」
「美海ちゃんのはどこ置いても売れる気がして。あと、周りの目もあって」
ごめん、という素振りを見せる誠さんに首を横に振る。正直、場所は全然気にしていない。それはどんな場所だって、たとえ名前を隠していたって、売れる絵は売れるのを知っているからだ。
剣崎翔琉の絵は、きっと、こうやって端に置いたって輝いて見える。
名前を隠していたって売れる。
「にしても、やっぱり素晴らしい絵を描くね」
「有難うございます」
「美しい中に、人間味もあって、けど幻想的。正直、お金があったら、俺が欲しい」
「慰めですか?」
「まさか。慰めで言ったら、失礼」
やっと少し余裕を持てるようになって、私は口角を上げる。慰めで言ったら、失礼……か。この人も画商だなぁ。
そんなところで、また人が入ってきた。チリンチリンという音とは似合わない派手な青い髪……あ、幸之助さんだ。
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