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「こんにちは」
「久しぶりだな」
「今回、青なんだ」
誠さんが幸之助さんの頭に突っ込む。
「赤と迷ったけど、気分で決めた」
「いつも変えるんですか?」
「普段は金髪。祭り事があるときは、必ず別の色にしてる」
そうなんだ。幸之助さんにとっては、験担ぎなのかもしれない。そんな幸之助さんも、自身の絵を出して準備を始めた。彼は私の隣。こないだの神楽カフェのときも初日は隣だった。
年齢が近いからだと思っていたけれど、あとでお父さんに聞いたところ、幸之助さんとの絵の相性が良いらしい。
というのも、私は人物画を描くことが多い。リアルなものを描いているのだけれど、彩月ちゃんの影響もあって、絵柄は少しファンタジーが混ざっている。幸之助さんは、どっぷりファンタジーを描く人で、今回も作品を見ると、自分の髪で作ったドレスを身に纏ったラプンツェルを描いていた。それともう一つは、狼を従えている16歳くらいの赤ずきん。
そういうファンタジーの絵柄の組み合わせが並べても互いに喧嘩せずにいられるらしい。
ということは、お父さんと誠さんの見立てが同じだということだ。
「狼を従える赤ずきんの絵、良いですね」
絵を眺めて、幸之助さんに言う。
「これ?」
「大人になって美しい猛獣使いになっているところがなんとも……」
常識がひっくり返った感じが好き。
「こういう絵の方が売れるんだよな」
「え?」
ぼそりと呟く幸之助さんを見上げた。彼は苦笑する。
「本当はもっと抽象的なものとか、もっと大きい作品を沢山描きたい。でも、残念ながらそういうものは全然売れねぇのよ」
肩を竦めると、幸之助さんは絵画を撫でるように壁に手を添えた。
「こういう絵を描くのは嫌いじゃない。でも、もっと大きい作品にしたかったり、もっと残酷に描いてみたいって気持ちはある。それが売れれば、きっと俺はそっちを選んでる。……売れない画家は、まず自分の持ってる力で売れる絵を探す。そういうもん」
「自分の好きなもの描けば良いのにね?」
「お前は簡単にそういうことを言うよな」
誠さんの言葉に、幸之助さんは気が抜けたように天井を向いた。
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