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先頭車両に到着すると、先頭の車両の上に佇んでいた魘夢は気安く声を掛ける。
「あれぇ、起きたの。おはよう、まだ寝てて良かったのに」
ひらひらと手を振る魘夢の姿に、炭治郎が眉を寄せ、俺が魘夢に話し掛ける。
「……なぜお前は、関係の無い人たちを巻き込んだ?」
「聞いてないの?あの子たちはもう先がない。だから、オレが夢を見せる約束をしたんだ」
「……それから、精神を破壊してから喰う、ということか」
魘夢は
「そうそう、夢心地だろう」
と笑う。
それを聞いた炭治郎は、青筋を浮かべ日輪刀を抜く。
「お前!人の想いに漬け込むな!水の呼吸 拾ノ型 生々流転!」
炭治郎の周りに青き龍の姿が漂うようになり、炭治郎は走り出す。
それは勢いを付けると大きくなり、魘夢に牙を向ける。
「気が早いなぁ」
魘夢は、炭治郎に向けて左手の甲を差し出す。
「血気術 強制昏倒催眠の囁き。」
俺は魘夢の左手の甲についてた口が開く前に、
「龍の呼吸 壱ノ型 龍の舞!」
俺が抜刀した刀を横に傾けて加速し、一閃で魘夢に左腕を斬り飛ばしたのだ。
頸を取れたら一番良かったが、死角になっていた為左腕を斬り飛ばすのが限界だった。
だが――攻撃はまだ残っている。
「オレたちの想いを、利用するなアァアアァッ!」
炭治郎の刀が魘夢の頸を飛ばすが、斬った手応えが無い。
頸だけになった魘夢は口を開く。
「あの方が、“柱”に加えて“耳飾りの君”を殺せって言った気持ち、凄くわかったよ。存在自体が何かこう、とにかく癪に障って来る感じ」
炭治郎は
「死なない…!?」
と呟きながら目を丸くする。
「うふふふ。素敵だねその顔、そういう顔を見たかったんだよ。――でもそうだよね、なぜ頸を斬ったのに死なないのか。それはね、それがもう本体では無くなっていたからだよ。今喋っているこれもそうさ、頭の形をしているだけで頭じゃない。君たちがすやすやと眠っている間に、オレはこの汽車と融合した!」
魘夢は、俺達を見ながらニタニタと笑う。
「この汽車全てが、オレの血肉であり骨となった。つまり、この汽車の乗客二百人余りがオレの体を更に強化する餌。そして人質。ねぇ、守りきれる?君たちだけで、この汽車から端から端までうじゃうじゃとしている人間全てを――オレに“おあずけ”させられるかなぁ?」
魘夢は
「うふふ」
と言って、列車の屋根に溶け込んで消える。
魘夢の言葉に弾かれるように、俺と炭治郎は列車内へ戻った。
そこで目にしたのは、天井や椅子の端から肉塊なようなものが盛り上がり、乗客を包み込もうと蠢いているのだ。
「龍の呼吸 五ノ型・流星群!」
楓が放った十八連撃・・・・が肉塊に直撃し、肉塊を灰に還す。
「水の呼吸 参ノ型 流流舞い!」
炭治郎は水流に身を任せて流れるように、狭い通路や座席の間を移動しながら肉塊を斬り灰に還す。
――この型を放っただけでこの車両の肉塊は消え去ったが、時期に再生するだろう。
そこへ、後方車両から誰かがやって来る気配を捉える。この気配は、杏寿郎のものだ。
杏寿郎の到着と同時に車両が揺れ、目の前には杏寿郎の姿。
「ここまで来るまでに斬撃を入れて来たので鬼の再生にも時間がかかると思うが、余裕はない、手短に話す。この汽車は八両編成だ!なので、星龍とオレで四両づつ守る。竈門少年たちは、鬼の頸を探せ!」
杏寿郎の言葉は簡潔だった。
それから、俺は刀を握り直し口を開く。
「炭治郎。車両の乗客は、煉獄さんと俺に任せろ。炭治郎は、善逸たちと協力して鬼の頸を落とせ」
「わかりました。まずは、善逸たちと合流します」
「うむ!急所を探りながら戦おう、君たちも気合いを入れろ!」
そう強く言うと、杏寿郎は凄まじい勢いで後方車両に向かい、炭治郎は善逸たちと合流する為走り出し、俺は納刀し、右掌を添える。
「龍の呼吸 壱ノ型 龍の舞!」
凄まじい勢いで前方に加速し、姿が見えなくなる。
そう、一人では出来ないことは仲間がいれば出来る。
そう信じて各自は行動を起こしたのだ。
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