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「なぜ手負いの者から狙うのか、理解できない」
と煉獄さんが言うと、
「話の邪魔になると思った。オレとお前たちの」
そう言ってから上弦の参は、杏寿郎の問いに
「なぜ当たり前のことを聞いた?」
と疑問符を浮かべる。
俺は刀を構え、口を開く。
「善逸。炭治郎を安全な場所に連れて、伊之助と共に残りの乗客の誘導を任せる。――俺と煉獄さんで、上弦の参を討つ」
「黄色い少年。上弦の参はオレと星龍が討つので、乗客の避難は任せた!」
「……分かりました。煉獄さんも誠さんも、無茶はしないで下さい」
善逸は頷き、炭治郎を背に乗せ立ち上がりこの場から離れて行こうとするが、上弦の参は地を踏み加速し、善逸に右手拳を振るう。
そして俺は、左腰方向に刀を回す。
「龍の呼吸 壱ノ型・改 乱舞一閃!」
爆発的に加速し、上弦の参の右腕を切断するが、直後に再生。
俺は上弦の参を見据え、鋭い視線を送る。
「……お前の相手は、俺と煉獄さんだ。他所見するな」
上弦の参は後退するが、杏寿郎が型を構える。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」
杏寿郎は一気に間合いを詰め上弦の参の頸を落とそうとするが、上弦の参はさらりと回避する。
杏寿郎はその勢いに乗って加速し、俺の隣に立つ。
「……なぜお前たちは、弱者を庇う。――オレからしたら、弱者は見たら虫唾が走る」
だから嫌いだと、上弦の参はそう呟く。
「やはり、オレたちと君は物事の価値基準が違うようだ」
杏寿郎がそう呟くと、上弦の参はある提案をする。
「そうか。では、素晴らしい提案をしよう――お前たち、鬼にならないか?」
「ならない。オレは炎柱・煉獄杏寿郎だ」
「悪いが俺もお断りだ。俺は龍柱・星龍誠だ」
しかし、上弦の参の提案を、俺達は間髪入れず拒否。
鬼になってしまっては、帰る場所に帰れなくなってしまう。
「オレは猗窩座――見れば解る、お前たちの強さ。その闘気、練り上げられている。至高の領域に近い。しかし、なぜお前たちが至高の領域に踏み入れないのか教えてやろう」
猗窩座は、右手人差し指で俺と杏寿郎を差す。
「人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ。――だが鬼になれば、百年でも二百年でも鍛錬し続けられる、強くなれる」
杏寿郎は、猗窩座に鋭い視線を送る。
「老いることも、死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ。強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉ではない」
「そう、強さとは人の気持ちでもある。お前も人間だったころは、人の心を持っていて、誰かを愛したはずだ。猗窩座、その心はどこに置いてきた?」
俺と杏寿郎がそう呟くと、猗窩座の額に青筋が浮かぶ。
「結論は見えている。――君とオレたちの価値基準が違う、如何なる場合も、オレ達は鬼にはならない」
「…………そうか」
猗窩座は落胆したように眉を下げるが、次第に不敵な笑みを浮かべる。
猗窩座が型のような姿勢を作った途端に、空気の重圧が増した。――それは殺気。
これから始まるのは、命を賭けた殺し合いだ。
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