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「猗窩座、お前の物差しで見るな。俺たちは、自身の信念の為に腕を磨いてるんだ」
そう言った俺も、杏寿郎と同じく、額、頬から鮮血を流し、右脇腹の骨が折られていた。
破壊殺・乱式。
「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!」
「龍の呼吸 伍ノ型 流星群!」
猗窩座の放った拳、杏寿郎の轟炎、誠の流星群が衝突し、凄まじい爆発音を放つ。
「生身を削る思いで戦ってとしても全て無駄なんだよ、杏寿郎、誠!お前たちがオレに喰らわせた素晴らしい斬撃も、先程のように完治してしまった。だがお前たちはどうだ…」
左腕の骨が折れ、腕がだらりと垂れ下がり、右脇腹の骨が折れそこから血が滲み、額、頬は切り傷だらけで鮮血を流している俺。
そして、潰れた左目に、折れた肋骨、額、頬から鮮血を流す杏寿郎。
「鬼であれば、瞬きする間に治る。――そう、どう足掻いても人間では鬼に勝てない」
猗窩座は、俺達を見下すように見る。
だが俺は、右手で刀を構え口を開く。
「――猗窩座、お前は一体何様のつもりなんだ。鬼が強い、人は弱いとか、誰がそんな風に決めた?鬼が強い生き物なら、人間は強くなれる生き物だ。だから、鬼殺隊員は人間の身で鬼と戦えている。その事実が否定できない癖に、勝手なことばかり言うな」
俺は
「惨めだぞ、お前」
と続けると、猗窩座の額に青筋が浮かぶ。
「……そうか誠…。ならばお前は強い人間だと言うんだな?」
「俺は強くなんかない」
と言って頭を振る。
「俺は弱い人間だ。ただ強くあろうという想いで、懸命に上を目指しているだけだ」
俺の脳裏に過るのはお館様率いる前線で鬼と戦う鬼殺隊のメンツ、いくらケガや病気をしても親切に療養や機能回復訓練をしてくれる裏方の蝶屋敷や戦闘後の事後処理をしてくれる隠の人達、親友の奏多。
そして最愛の継子、観音の呼吸の使い手の由良…。
そんな俺の言葉を杏寿郎は静かに聞いていた。
そしてこう思った。
「自身より年下の子が、このような想いを抱いて鬼殺を行っていたなど、考えたこともなかった」
その時、杏寿郎は有る光景を思い浮かべる。
それは、床に伏せていた母の姿だ。
母は、病に侵されようとも最期まで凛としていた。
杏寿郎は、そんな母との会話を思い出したのだ。
ある日、日々の報告をしようと、母の部屋に訪れた時だ。
母は唐突に『強き者』について問うてきたのだ。
そう、杏寿郎は強き者なのだ。
しかし、当時の杏寿郎は言葉に詰まってしまった。
当然だったのかも知れない、杏寿郎は、自身が強者だと漠然にしか受け止めていなかったのだ。
そんな杏寿郎に母は、凛とした眼差しでこう言ったのだ。
『強き者は、弱き人を助ける為です。――生まれついて多くの才に恵まれた者は、その力を世の人たちの為に使わねばなりません。天から賜りし力で、人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されません。――弱き人を助けることは、強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさなければならない使命なのです。――決して、忘れることなきように』
杏寿郎が母の想いを聞いて数日後に、母は天に昇った。
最後まで凛々しく、静かに息を引き取ったのだ。
そして誠の今の想いは、決して芽を摘ませたらいけない。
自身の使命として、責務として、個人の想いとして。
「(――母上。オレは今、次世代を担う子と共に戦っています。決して、この芽を摘ませたりはしません。それが、オレの使命です――)」
杏寿郎は刀を握り締め、心を燃やした。
それは闘気となり空気を揺らす程だ。
そして、杏寿郎は型を構える。
「炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄!!!!」
杏寿郎の覇気に一瞬押されたのか、猗窩座の反応が遅れた。
次いで、凄まじい直線的な加速に爆風と土煙。
土煙りが晴れると、そこに映ったのは猗窩座の頸は斬れていないものの、両腕と体の半分以上左側が削がれていた。
しかし、距離を取った猗窩座はすぐさま体を再生させようとする。
追撃を加えたいが、杏寿郎は技の反動で動くことが叶わない。
そして、猗窩座が体の再生を完了させたら最後、動けない杏寿郎は、猗窩座の手によって殺されるだろう。
右腕だけを再生し終えた猗窩座は、片足だけを踏み込み、杏寿郎の腹目掛けて拳を振るった。
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