第二話 無限列車編

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俺が杏寿郎に迫る猗窩座の右腕を斬り飛ばすには、自身と距離が開き過ぎている為、壱の型、龍の舞以上の速度が必要であり、右腕を正確に斬り落とす必要がある。 猗窩座の右腕を斬り落とすことだけに集中し、他の物は全て削ぎ落す。 すると、猗窩座と杏寿郎の姿が、透明に見え、筋肉と血管の通りが浮き出て見える。 今の俺の瞳には、猗窩座の右腕を斬る為の正確な位置、そこまでの最短の道程が見えているのだ。 刀を左腰方向に回す。   これを使わざるを得ない、か。 「龍の呼吸 漆の型 神速!」   この技の速度は龍の舞の速度の6倍であり、遠心力を利用し一閃の威力は2倍だ。 だが、片足の骨折は必須なのだ。   そして爆発的に加速し、杏寿郎の腹部に迫る猗窩座の右腕を斬り落とす。   「龍の呼吸 肆ノ型 逆鱗!」   そのまま刀を下から上に斬り上げ、斬撃で猗窩座の頸を狙うが、猗窩座はそれを寸前の所で後退し回避。 そして猗窩座は 「チッ」 と舌打ちし、内心で冷汗を流した。 猗窩座の雪の羅針盤は、相手の闘気を察知し、攻撃の予測、回避に応用しているのだ。 だが最初の一閃だけ、闘気が感じられなかった。 もし最初に頸を狙われていたら、闘気を察知することが出来ずに頸を刎ねられていたのかも知れない。 その時、猗窩座の表情から焦りが見て取れた。 これは夜明けの気配だ。 列車の向こう側から、徐々に日が昇り始めているのだ。 だが、猗窩座自身の再生はほぼ完了しているし、現在の俺達は満身創痍だ。 何かしらの攻撃を与えられれば殺せるだろう。 でも、殺すことに固執しすぎると己の身を滅ぼす。 俺達が、まだ何かを企んでいるかも知れないのだ。 猗窩座もそれを分かっているらしく、 苦渋の決断の据え、口を開く。   「……杏寿郎、誠。次は殺す」   猗窩座は毒付き、体を翻した。 猗窩座は、森の奥へ、奥へと姿を消して行く。 完全に朝日が昇った所で、戦闘は終わりを告げた。 俺達は満身創痍な姿だが、命は繋げていた。 右手で携えていた『悪鬼滅殺』と描かれた日輪刀を地に落とすと、グサ、と言う音と共に、刀が地に突き刺さった。   「……煉獄さん。生きてますか?」    杏寿郎は納刀し、口を開く。   「ああ、生きてるとも!先程は、死を覚悟したんだがな!」   わははは!と笑う杏寿郎。 俺は 「元気だなぁ、煉獄さん」と内心で呟く。 てか、杏寿郎も俺と同様に重傷なんだが。   「俺も死を覚悟しましたよ」   そう言ってから苦笑し、折れてない手で右脇腹を抑え、両膝を地に突け背からゆっくりと仰向けに倒れる。 先の一閃で折れた右足が悲鳴を上げ、肋骨が折れた右脇腹から激痛が走ったのだ。   「しかし、星龍。星龍は柱の中で、上弦と対峙する経験が二度もあるとはな!」   と言ってきた。 「ああ、前に奏多と上弦の弍とですね。」 カナエさんが柱を引退する理由になったのは、上弦の弍と遭遇して、肺にダメージを喰らったからと奏多から聞いていた。 できる事なら俺も上弦の弍を倒したいが、それは奏多、しのぶ、カナヲに任せよう。 そう思っていると、
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