FINAL LAP

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 昨日のレース1、煙る水飛沫の向こうに、いるはずのないライダーが俺の前を走っていた。  ゼッケン18をつけた青い色のバイク、青い色のスーツを着て俺と色違いのメットを被る。  なんで兄貴がここにいるんだ?  そう思った瞬間、雨なのに大幅にブレーキングポイントが遅れ、気付けば1コーナーをグラベルと呼ばれる砂利道まで突っ込み倒れた。  慌ててバイクを起こしてレースに復帰したけれど、そのせいで大量にあったはずのポイント差は無くなり逆転を許してしまう。  二位の隼人兄に。  兄が息を引き取ったのは、あのレースから二日後。  意識が戻らないまま17歳の若さで逝ってしまった。  母は俺にバイクレースを止めて欲しいと願っていたけれど、それはできなかった。  兄貴の命はバイクに取られたんじゃなく、隼人兄に取られたんだから。  レースアクシデントとして事故は処理された。  でもあの隼人兄がミスをするなんて俺にはどうしても解せなかった、今もそうだ。  花を持ち黒い服に身を包んだ隼人兄と月命日に兄貴の眠る霊園前でバッタリ顔を合わせた日。 『何しに来たんだよ!! 兄ちゃんに合わせる顔何かないだろ?! 帰れっ、帰れよ!! 二度と来るなっ!!』  泣きながら叫ぶ俺は父と母に取り押さえられた。  隼人兄は俺の罵倒に耐えるように、真っ青な顔で一礼してその場を立ち去った。  あれからずっと隼人兄は日本に留まっている。  兄と二人、どっちが早くMotoGPライダーになるかって競っていたあの無邪気な笑顔はあの日に消えてしまった。  どうしても決着を付けたかった、俺の心のわだかまりに。  隼人兄を打ち負かして、シリーズチャンピオンを取ること。  その勝利を兄に捧げること。  他のカテゴリーでシリーズチャンピオンをとっても満足できなかった。  だから隼人兄の所属するJSB1000クラスにカテゴリー変更をしたのだ。
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