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「最終コーナーで並びかけてくるのだって、アイツなら絶対そうするってわかってた。夏に俺が勝った時、ずっと悔しそうだったから、きっと今日は全力で来るだろうって。……透也は俺じゃなきゃ、あんな風に並んで仕掛けてなんて来なかっただろうな。俺のこと信用してなきゃレインコンディションでアウトから被せてくるなんてあり得ないからさ」
悔しそうに唇をギュッと噛んで天を仰ぎながら涙を止めようとする隼人兄だけど、逆効果だ。
次から次へとボロボロと落ちてくるから。
俺だって思わず自分の頬を拭うハメになる。
「俺は透也の信頼を裏切った。最終コーナーを曲がり切ればゴールはすぐそこだ、インサイドの俺の方が若干有利だ。チャンピオンになるのは俺だ! って、その想いに気を取られコース取りを誤った。縁石にわずかに前輪がかかった瞬間にスリップしてマシンがコントロールできなくなって、……ごめん、秀二、ごめんな? 何千回、何万回謝ったって透也は戻って来ない、ごめんな、透也!! ごめんっ、透也!!」
いつの間にか俺じゃなくて兄貴の名前を呼んで泣き出した隼人兄。
きっとずっとあの日に戻ってやり直したくて、後悔を引き摺って俺の冷たい態度も全部受け止めて。
それでもここに留まったのは、兄貴の分まで走ろうとしていたんじゃないだろうか?
思い出したのはあの日、あの雨の中で四つん這いになって兄貴を覗き込んでいた隼人兄の姿。
『透也、ごめん、起きてくれ!! 透也、透也、透也ァァァァ!!! ごめん、ごめん、ごめん!!!』
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