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聴こえていた、本当は。
隼人兄の心からの謝罪も叫ぶような泣き声も。
目の前で倒れ動かない小さい頃からの親友の姿。
そうさせたのが自分自身だって、わかって苦しんでいる隼人兄に向かって、俺は。
『隼人兄ならあんな雨でスリップなんかしねえだろ!! なんでだよ!! なんで、なんでっ!!』
『何しに来たんだよ!! 兄ちゃんに合わせる顔何かないだろ?! 帰れっ、帰れよ!! 二度と来るなっ!!』
ごめんな、隼人兄。
ちゃんとわかっていたのに。
わかってるっ、もう気にしないで、って俺が言ってればこんなにも長く隼人兄は苦しまずに済んでたはずだったのに。
「あのさ、隼人兄。俺ね、12月にはスペインに渡航する」
泣きながらも隼人兄は俺を見てまるで自分のことのように嬉しそうに微笑んで。
「その前に、このトロフィー持って兄貴にチャンピオン報告に行くつもり」
うんうんと何度も相槌を打ってくれる。
だから、さ。
あんたも俺の大事な兄貴だから。
「一緒に行かない? 墓参り。きっと隼人兄のこと兄ちゃんもずっと待ってる」
驚いたように目を見開いた隼人兄は。
「行っても、いいのか?」
今度こそ、おいおいと男泣きにむせび泣く。
きっと俺に来るなと言われてから律儀にそれを守ってきたんだろう。
「ごめんね、隼人兄。ずっと会いたかったんだろ? なのに、」
お互いに泣きながら謝り合って最後は抱きしめあってまた泣いて。
表彰台に立つまでに相当、時間がかかった。
観客やファンの人も多分それが何でだかわかっていたからだろう、待っていてくれ大きな拍手で迎えられた。
真っ赤に泣き腫らした俺と隼人兄が笑って肩を組んでいる写真が次の号のバイク雑誌の表紙に使われていた。
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