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11月下旬、隼人兄と霊園前で待ち合わせた。
「兄貴、俺しばらく来れないけどさ。寂しくないだろ? これからは時々隼人兄が来てくれるから」
並んで手を合わせて、チャンピオントロフィーと二人が表紙になったあの雑誌を墓に置いた。
「透也、久しぶりだな」
そう言って御影石で出来た兄貴のレプリカヘルメットを懐かしそうに撫でた隼人兄。
「秀二のこと見守ってくれよな、絶対いつかすげえライダーになるから」
その瞬間、ブワッと吹き上げた風が。
パラパラと雑誌を捲り見開いたそのページ。
まだ幼い頃の俺が、J―GP3クラスに二人同時にステップアップした兄貴と隼人兄に挟まれて笑っているショット。
見出しには将来のMotoGPライダーたち、と書かれている。
思わず隼人兄と顔を見合わせて笑い出した。
「あのさ」
「ん?」
「もう遠慮すんなよ? 俺もう一度、隼人兄と全力で戦いたい!! だから、来てよ、世界戦。俺もそこを目指すから!!」
あの日鈴鹿で諦めただろう、隼人兄の夢。
俺からあなたへの願いはもうそれだけ。
「やれるかな」
「やれるよ、俺の兄貴だし」
どこかで兄ちゃんが笑ってる気がして、俺たちは冬空を見上げた。
【完】
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