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立ち止まった俺の気配に気づいてゆっくりと振り返ったその人は。
「おはよ、秀二」
俺の顔を見ると少し寂しそうな笑顔を覗かせる。
年々兄貴に似てくる俺の顔を見るのは辛いだろう?
「おはようございます」
ぶっきらぼうに挨拶をかわして隼人さんの立つ壁際へ移動すると。
それに気づいて一歩退き、俺にその場所を明け渡す。
隼人さんの気配を背中に感じたまま、手を合わせ祈りを捧げる。
今日の優勝を兄貴に誓った。
「俺、来年スペインで走る予定です」
「聞いてる、さすがだな」
「隼人さんは、ずっとここにいるつもりですか?」
振り返った俺の目を見れないままで、曖昧に微笑み逃げるように背中を向けて歩いていく。
「今日、絶対負けませんから!! チャンピオン取って兄貴に渡しますんで」
聞こえているはずなのに振り返らない、隼人さんに。
「だからって手を抜いたりしたら承知しないんで! 全力で戦ってくださいね!!」
俺が、親友でありライバルだった早川透也の弟だからって。
あんたが事故に巻き込んで殺した天才ライダー早川透也の弟だからって手を抜かれたくはない。
そんなんで勝っても兄貴は絶対に喜ぶはずないんだからな!
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