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兄貴が賭けに出たのは信頼する隼人兄だからだ。
隼人兄の腕を信用していたんだろう。
ファイナルラップ最終コーナーでインにいる隼人兄に兄貴はアウトから仕掛けた。
この悪天候でしかもコーナーのサイドバイサイド、信じられない。
俺だったらできない、だってレインだよ?
どうかしてるだろ?
いくら親友だからって、信用しすぎだよ。
まるでスロモーションのよう。
ピットに備え付けられたテレビモニターの中で。
インにいた隼人兄のマシンがスリップダウンし、ズルッと滑ったのがわかった。
その場の全員が目を見開き凍り付いた。
避けて、お願い、兄ちゃん避けろ!!
滑ったマシンはコントロールを失ったまま、真横にいた兄貴のバイクに当たる。
二台はそのまま画面から消えて行った。
「透也、透也っ!!」
雨の中走り出す父と母、そしてチームスタッフ。
俺もその後を追う。
次々とゴールに向かうマシンが全部通り過ぎた後、俺たちを制するオフィシャルを無視してコースを横切った。
横たわる青いライダースーツの兄貴の横で跪き四つん這いで何かを叫ぶ隼人兄。
やっと来た救急車が動かない兄貴と母と父を載せた。
「何でだよ!!」
四つん這いになったままの隼人兄の前に立ち睨み下ろした。
「隼人兄ならあんな雨でスリップなんかしねえだろ!! なんでだよ!! なんで、なんでっ!!」
呆然と俺を見上げていた隼人兄。
泣き叫んだ俺はチームオーナーに抱きすくめられた。
***
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