影愛

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 その点でこの部屋は、僕の心を違う角度からすり減らしていた。 「彼女はいちいち文句を垂れながら片付けるんだ。文句を言うぐらいなら、そのままでも構わないのにな。君みたいに、黙々とやってくれれば良いんだけど」  不満そうな栄田は、熱があるにも関わらず減らず口を叩く。 「でも……結婚したら、そうもいかなくなるんじゃないかな。彼女の言い分も考慮しなきゃ、いけなくなるだろうし」  なんとなしに発した言葉ですら、まるで牽制しているように僕には感じられた。実際にそういうつもりで言ったのかどうか、僕には分からなかった。 「結婚か……彼女からも耳にタコが出来るほど言われてる」  栄田がぽつりと零した言葉に、僕は思わず手を止めて栄田を見つめる。  栄田は天井を見つめていて、その読めない表情に僕の心は一気に体温を失っていく。 「結婚したいと押しつけがましくされて、俺は辟易しているんだ。正直、俺はまだ結婚したくはない」 「でも……彼女はきっと、早くしたいんじゃないのかな」  期待はするなと自分に言い聞かせるのは、もう数え切れない程の回数に膨れ上がっているはずだ。
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