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雑然とした部屋は、栄田らしさを現しているようで掴み所がない。
床には、螺旋状に積まれているCDケースのタワー。棚に押し込まれているビジネス書は、等間隔に何故かシェイクスピア作品が挟まっている。
テーブルにはシャツが脱ぎ捨てられ、椅子にはスーツのジャケットとズボンが重なり合い、今にもズレ落ちそうになっていた。
手始めに僕は、シャツを片手に脱衣場に向かう。籠に積まれたままの洋服やバスタオルを仕分けると、洗濯機を回す。
それから、放置されているスーツをきちんとハンガーにかけ、クローゼットに仕舞い込む。
「君は良い仕事をしてくれるよ。俺が何も言わなくても、君は完璧にこなしてくれる」
ベッドに横たわり、少し目元を赤らめた栄田が、力なく僕に笑いかけた。
熱に浮かされているせいなのか、気の強そうな二重瞼が今は柔らかくほどけて見える。
「僕じゃなくても、適任者はいるじゃないか」
僕は何気ない風を装い、黙々と部屋を片付けていく。
ピアスや長い髪の毛らしきものは、落ちてはいないだろうか。
見つけたら見つけたで落ち込みそうなものなのに、視線はそれとなく周囲を探るように床を彷徨ってしまう。
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