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それなのに鼓動は速まり、栄田の次の言葉を聞き逃すまいとして耳を傾けてしまう。
「俺の人生なんだから、俺が結婚する時期を決めるのが当然の事だ。それを無理強いするような相手とは、この先の人生を歩んでいくのは無理に決まっている」
栄田は小さくため息を吐くと、「面倒くさい奴は嫌いだ」と寝返りを打った。
――僕だったら、栄田の思い描く人生に文句を言ったりしない。
そんな自惚れた事を、口にする勇気など僕にはない。だからこそ、栄田に求められた役割をこなしていく、謂わば影の存在でも構わなかった。
光は彼女。影は僕。
栄田は影に少しずつ、足下を取られていけばいい。
光を浴び続けるのは面倒くさい。いっその事、影に呑み込まれた方が楽だ。
そう思ってくれる日を、僕はひたすら待ち続けるだけ。
「そうだ。おかゆ作るよ。卵多めだろ?」
そう言って僕は、台所に向かう。その背に「さすがだな。俺の事、何でも分かってる」と、賛美の声。
――当然だから
僕は声に出さず、口だけ動かした。
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