貴方へ

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あれはちょうど、去年の夏のことでした。 蒸し暑い夏の日、人が沢山乗っている電車の中で、 ぼくは少し、体調が悪かったのです。 吊革に捕まり、何とか目的地までたどり着こうと、 頭の中では必死でした。 そんな時でした。 目の前に座っていた貴方が突然、席を立ったのです。 そしてその席を、何も言わずに離れていきました。 そしてぼくは気づきました。 貴方はぼくが、体調が優れないことに気がついて、 ぼくの為に席を開けてくれたんだと。 幸い、他にも人がいた中で、ぼくはその席に着くことが出来ました。 止まった駅で降りてしまった貴方の顔が、 ありがとうも言えなかった貴方の事が、 その日から忘れられなくなりました。
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