14人が本棚に入れています
本棚に追加
寂れたラブホテル。人気のないウィークリーマンション。廃墟となったクラブ。繁華街のはずれの特にうらぶれた地域に、その物件はあった。ホテル:アズール401号室。
記録に残る最初の事件は五年前。デリヘル嬢を喚んだ客と派遣した業者の、二人の男が死んだ。どちらもヤクザだった。単純なトラブルが暴力沙汰に発展したのか、組織どうしの争いが影響したのか、判然としない。以後401号室では自殺、他殺が繰り返され、わかっているだけでも五つの死体と十二人の怪我人・病人が生み出された。
建物周辺には瘴気のようなものが溢れ出していた。負の霊子場が、部屋の外どころか街区一帯に影響を及ぼしているのだ。
相変わらず私の死体でいっぱいの街路に、雀が落ちてきて痙攣し、息絶える。酒瓶が散乱する中に年老いた男がうずくまり、胸を抑え苦しげに呼吸する。十五歳以上には見えない少女が膝を抱えうつむいている。
少女?
近づく私の靴音に少女は顔をあげた。目が合った。
細い。病的に痩せている。手首を隠すように巻かれた包帯。何日も眠っていないのではと思わせる疲れた目が、じっと私を追っている。
どういう意味でも、関わるべきではなかった。私は清掃人であって児相の職員でも聖職者でもない。だが私は、気づかなかったふりをして通り過ぎることもできなかった。
私はかがんで、少女に向かって手を伸ばした。少女はその手を掴んだ。
指と指が触れた瞬間、少女がすでにこの世のものでないことがわかった。
最初のコメントを投稿しよう!