巨人 1973

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巨人 1973

夢……脳が記憶を整理するためのものとされているが、 それにしては、空を飛ぶことができたり、超人的な怪力を持っていたりと、 現実離れしたものを現実的に感じることもある。 現実離れ…… 本当にそうなのだろうか? 私にはどうしても、あれが単なる虚構には思えない。 「おい!起きろ、ナンバー10!!」 ナンバー10、それが現実での私の名前だ。 戦争で家族を失った私は、東関西重工の会長に拾われ、 東関西重工の幹部にまでやっとの思いでのしあがってきた。 私が10番目の幹部……ナンバー10となれたのも 夢のおかげと言って過言ではない。 私は、よく同じ夢を見る。 といっても、時代や場所は、それぞれ異なる。 それで何故、同じ夢と思えるのか…… 夢の中で、私は、怪物の姿になっているのだ。 もっとも、流石に荒唐無稽すぎるので、記憶が混在した結果なのかもしれないが…… 例えば 1973年日本…… この頃の夢は、昔からよく夢に見ていた。 今でも、気を抜けば、この夢を見てしまう。 私と、兄の一郎は、『神』と名乗る集団にスカウトされた。 私と兄は、世界大戦により家族を失い、その後勤めていた工場も、オイルショックの影響により倒産し、行き場を失っていた所だった。 集団の狙いは、『神』と名乗るだけあり、兄だったのだろう。 兄は、鍛え上げられた筋肉があり、また、星神拳(せいしんけん)という特殊な拳法も使えた。 星神拳……いくつかの流派があるようだが、当時の兄はその中の一つヘラクレス流を学んでいる最中だった。 私は、兄に比べ、体力があるわけでもなく、工場も兄の勧めで入ったにすぎなかった。そのため、その集団に入るかどうかも、兄に付いていく道しかなかった。 私が、この夢を最初に見たのは、終戦間近の4歳の頃…… 今でも、あの選択が正しかったのか迷ってしまう。 『神』と名乗る集団は、私と兄の体力や知力、さらには猛毒や熱・電気などへの耐性まで測定した。 テロの兵士でも作り出すつもりなのだろうか…… 当時の日本は、今と変わらず、表向きは治安が良いようではあるが、その内部は一つに纏まっておらず、諸外国からは格好の的であった。 つまり、国内外に敵がいた状態だったのだ。 そういう状況下、テロ・革命・侵略・戦争、そのどれもが起こりうる可能性がある時代だったのだ。 私は、その集団の兵士となることを受け入れた。 それが日本内部にしろ、海外組織にしろ、 工場が倒産し行き場を失った私たち兄弟を、誰も救ってくれない日本に怒りを覚えていた…… まだ4歳という幼さで家族を失った私たち兄弟を、誰も救ってくれないこの国に怒りを覚えていた…… 私の予想通り、『神』と名乗る集団は、テロ組織だった。 『神』という名前だけあり、各国の神話の神や超人のような怪物が集められていた。 兄が学んでいた星神拳も、極めればヘラクレスなどの超人に姿を変えるという伝説がある。 おそらくは、そういった者たちを集めていたのだろう。 『神』に入ってすぐ、兄とは離ればなれになってしまった。 再び会ったとき、兄はヘラクレスのような怪物に姿が変わっていた。 きっと、星神拳を極めることができたのだろう。 私は、兄に駆け寄ったが、兄は私に見向きもしなかった。 そんな私の前にDと呼ばれる『神』の科学者が現れる。 「兄のような力が欲しくはないか?」 確かに、兄が私に見向きもしなかったのは、私に力がないからなのかもしれないとは考えていた。 私は、Dの質問に「yes」と答えると、私の姿は兄とは異なる怪物の姿に変わっていた。 どうやって変わったのかは、夢に見ることがない。 例えば、Dによって効率のいいトレーニングでもしてもらい、さらに星神拳を学んだのか……それとも、科学者らしく妙なクスリか何かで一気に身体強化でもしたのか…… その間の出来事を夢に見ることがないため、未だにわからない。 私は、Dによって怪物の姿に変わっていた。 それは、兄のような神や超人の姿を模した怪物とは異なるものだった。 「廃材でもここまでの力になる……その力により『神』などではなく生物を複合した『悪魔』こそが現在の地球を導くと教えてやるのだ!」 私の姿は、トカゲやヒルやコウモリやサソリやカメレオンを合わせたような姿となっていた。 古来より、悪魔の姿は定まっていないが、生物を組み合わせた姿をしているという説がある。人間と生物を合わせたものから、生物同士を組み合わせたようなものまで様々だが、私の姿は、まさにその『悪魔』だった。 「さて、呼び名は何がいいかな……組み合わせのイメージはドラゴンだったのだが、羽根も小さくコウモリの要素が少ないな……」 私は、泣きながらも、Dの首に、腕から出るサソリの尻尾を突き立てようとするが、私の意に反し腕は止まった。 「主人への攻撃はできない。そうプログラムされている。……プログラム!やはり、あれだな……最高傑作とも呼べるエネルギー変換プログラム……地下からエネルギーを汲み取ることで、その身体を巨大化させることすらできる……巨人ティターン!最高の名ではないか?」 私の涙を他所に、Dは話し続けている。D……『悪魔』……そうか、デーモンのDだったのか……いつの間にか、涙も渇き止まっていた。 そんな中、突然、Dの身体が、真っ二つに裂ける。 兄の一郎……ヘラクレスだ……兄は、その怪力でDの身体を引き裂いたのだ。 私は、一瞬、兄が助けに来てくれたのだと思った。 「全く……『神』の中の反乱分子がいると報告を受けてみれば、まさか貴様だったとはな……」 兄は、私の首を締め上げてきた。 私は、兄に助けを求めるが…… 「ムダだ……その男はお前に情なんてない。お前は気付いていないかもしれないが、そもそも、お前が勤めていた工場が潰れたのも、お前の兄の遣い込みが原因なのだぞ……」 口を開いたのは、縦に真っ二つに裂かれたはずのDだった。 「反乱分子などと呼んでいるが、そもそも自分の強化の対価として、実験材料としてお前を差し出したのも、お前の兄なのだぞ……」 Dは、そう告げ終えると、泡となって消えた。 怒りが、私を包んでいく。 それに呼応するように、地面からエネルギーが伝わってくる。 背中のコウモリの羽根と全身のトカゲの皮膚と複数のヒルの細胞が巨大化し、Dのイメージ通り、ドラゴンのような姿となる。 さらにエネルギーは途絶えることなく、身体の全てが巨大化すると、巨大な人型の怪物……巨人ティターンとなった。 私は2本の指で兄をつまみ上げる。いくら兄が怪力の怪物であろうと、巨大化した私の力には敵うはずもない。 兄は、私に「助けてくれ」と懇願した。 そのときの私には、まだ兄を信じたいという気持ちがあった。 私は、兄を床に戻すと、誰の邪魔にもならないように地下に潜った。 繰り返し見る夢に、どちらが現実かわからなくなる。 1973年の頃の夢を1945年から見ていたとなると、私の1つの可能性であったのかもしれない。 地下で私は、そのエネルギーを自分のものに変えながら、大空洞を作り上げた。 ……これでは、ティターンというより、デイダラボッチだ…… ときたま聞こえてくるDの声に従い、元々地下に住んでいた者たちを捕らえ、より効率よく地下のエネルギーを吸収する術を学んでいった。 私は、『神』に対抗する勢力を生み出そうと、私のエネルギーを使い研究を行った。 別に『悪魔』になりたかったわけではない。だが、『神』に抗うのが『悪魔』というなら、『悪魔』なのだろう。 Dの声だけの助言もあり、私が作った最初の怪物は誕生した。 ネメアの獅子を模した不死身のライオンの怪物…… ネメアの獅子を模したのは、兄の脅威が忘れられなかったからだ。 私が作ったといっても、私はエネルギーを与えただけ……器となる身体は、私の脳内に響き渡るDの声に従い組み上げたにすぎず、それでも動かなかったため、Dの研究施設である東関西研究所にあった寄生虫アルファから分泌から作り出したDガスを投与してやっと動き出した。 寄生虫アルファ……2000年ほど前のヨーロッパにいたとされる寄生虫で、人間などの生物の脳に寄生してその分泌液により脳が活性化され、生物は狂暴化し、死者は意思もなく蘇るとされている。 意思の無い不死身のライオン……リビングネメアライオン(通称LNL)とされたその個体を地底に繋がる谷に番人として配備していた。 兄とわざわざ戦うつもりはないが、生きるためなら、『悪魔』にでもなってやる。 生きるためなら、何でもするという大人の決意を、4歳の子供であった私が見た事でかなり大きな影響を受けた。 だが、平穏が続いたあるとき…… 私が、エリュマントスの猪を模した四番目の番人を作り出そうとした頃…… 突然の『神』による襲撃…… 率いていたのは、兄…… 『神』の第三幹部となった兄の一郎は、部下を連れ、私たち『悪魔』の討伐にむかってきた。 ネメアの獅子を模した番人LNLは、神話の如く首を締め殺され ヒュドラーは頭を執拗に攻撃され、ケルベロスは太陽の火に曝され、正気を失い、ヘラクレスに従った。 地底の奥深く……『悪魔』の根城に攻めこんできた兄は、もぎ取ったLNLの首を誇らしげに兜代わりに被っていた。 いいだろう……神話の流れなんて変えてやる…… 確かに、兄は、端から見れば英雄だろう。 だが…… 誰が工場での仕事を助けたと思っている? 誰が戦火の中、瓦礫の下から助け合い思っている? 誰からどう見られてもいい。 端から見れば、兄は、『神』や英雄……私は、『悪魔』……それでいい…… 私が魔王ティターンとして、神話の流れを変えてやる! 私は、地底のエネルギーを集め、再び巨大化し、『神話』の怪物たちをプチプチと潰していった。 そして、兄も…… 私は、兄の死に、枯れたはずの涙が……黒い涙がポツリと流れた。 私が、この夢を見たのは、終戦間近の4歳の頃だった。 目が覚めると、瓦礫の下には兄がいた。 早く助けなければ……そう思う反面、夢の出来事が脳裏を過る。 それほどリアルな夢だった。 「三郎……たす…け…て……く…」 私が兄を助ければ、夢の出来事の通りになるのだろうか…… 誰からどう見られてもいい。 端から見れば、兄は弟の面倒を見ていた英雄、私は、兄を見殺しにした悪魔……それでいい…… 私が、魔王として、あの夢の出来事を変えてやる! 私は、瓦礫を集め、兄の上に乗せ、その身体の節々をプチプチと潰していった。 そして、兄は…… 私は、兄の死に、涙一つ流すことはなかった。 それから少しして…… 夢で東関西研究所のあった場所にある東関西重工で、Dを見つけた私は、夢の出来事を全てDに話した…… Dは私の話に興味を持ち、養子兼幹部候補として招いてくれた。 その後、私は、魔王と呼ばれるまでになるのだが、それはまた次の機会にて。
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