優しさ

11/22
前へ
/268ページ
次へ
 寮の玄関を出たが、光汰の姿が見当たらない。辺りを見渡していると、パパンッと抑え気味の車のクラクション音が響いた。  すぐそばの路肩にハザードランプをつけて停車しているライトバンが目に入った。近寄っていくと運転席から光汰が降りてきて、助手席のドアを開けてくれた。 「ごめんな、響。」  寝起きの頭で整理できず、私が戸惑っていると、 「…ここ、あんまり停められないから、とりあえず乗って?」 光汰が急ぎつつも、少し申し訳なさそうに言った。  通りの向こうにトラックのライトが近づいてくるのが見えた。対向車線にも遠くから向かってくる車のライトが見える。ちょうどここですれ違うかもしれないタイミングだ。  私は慌てて車に乗った。光汰は 「閉めるよ?」 と私に声を掛けて助手席のドアを閉め、それから、運転席に乗り込むと、慣れた手つきでシートベルトを閉めエンジンをかけた。車は思っていたよりもスーッと滑らかに動き出した。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

126人が本棚に入れています
本棚に追加