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車に乗る光汰を見るのは初めてだ。一連の動作が流れるように自然で、とても大人に見えて、思わずじっくり観察してしまった。
「なに?どうした?」
ずっと無言で見ていた私に光汰が気づいた。
「初めて見た。運転する光汰。」
運転しながら、一瞬面食らった表情をした光汰は、私の方に視線を送って目を細めて顔を綻ばせた。
「響、寝起き?」
寝起き?…かもしれない。私が寝起きだと嬉しいのだろうか。変な光汰。
大きな交差点の信号が赤になり、光汰は車を静かに停止させると私の目を見て言った。
「さっきはごめん。何があったか説明させてくれる?」
私が無言で頷くと、男の人にしたら綺麗な光汰の手が伸びてきて、指の背で私の頬をそっと撫でた。寝起きで走ったからか、少し火照った頬に光汰の冷たい指が滑るのが気持ちよくて、少し頬を擦り寄せてしまった。
「…。」
「…。」
始まるだろう説明を待っている私を、無言で見てくる光汰。
「待ってるんだけど…」
「えっ⁉︎」
「説明。光汰、大丈夫?」
「うん、説明だよな。」
光汰は、小山さんが足を捻った時の状況、様子を見て欲しいと店長に頼まれた事、家に送ることになった経緯を話してくれた。ちゃんと私の事も考えて、店で待たせて欲しいと店長にも伝えていてくれたと知り、黒い嫌な気持ちがすっきり晴れた。
その一方で、嫉妬で自分の気持ちが制御出来ずに、文字通り突っ走ってしまったことが申し訳なくなった。
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