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店長と別れた帰り道、絡めた指に優しく力を入れた光汰が私の顔を覗き込んで言った。
「どうした。まだ怒ってる?」
しばらく何も言わなかった私を心配そうに見ている。
「ううん。きっと何かあったんだろうなって、どっかで分かってたんだけどね。耐えられなくなっちゃって、また逃げちゃった。どうして私はすぐに逃げちゃうのかなって考えてた。」
「何かあったんだろうって思ってくれてたから、逃げたんだろ?」
私自身が分かっていないので、光汰の言葉の深い意味が分からずに光汰の顔を見た。するとなぜか、光汰はとても嬉しそうに笑った。
「響はイヤな気持ちになったけど、何かあったんだろうって思ってくれたから、その不満を俺に言いたくなかったんだろ?何があったか分からないのに、理不尽に俺を責めるようなことは言いたくなかったんじゃねぇの?でも、イヤな気持ちは消えなかったから、取り合えず距離を取りたくなったんだろ。」
「あ、そうかも。じゃ、私、いい女じゃん。」
恥ずかしくなった私がふざけて言うと、光汰は繋いだ手をくいっと引いて、私をすっぽり抱き締めた。
「うん。めっちゃいい女だよ。」
「すぐ逃げるのに?」
「うん、逃げ足早いし、他の男のとこに行っちゃうけど。」
「今日は光汰がルカさんを呼んだんだよ?」
「あれ?そうだっけ?」
ととぼけて笑う光汰の声が私の身体に響いて、幸せすぎて泣きたくなった。そして、私がおもむろに光汰を見上げると、
「ここからダッシュな。」
と光汰は突然変な宣言をして、本当に手を繋いだまま走り出した。
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