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プロローグ
大陸の北端、草木の生えない荒野には邪神城がある。一帯の空は暗雲に覆われており、邪神による結界が日光を遮っていた。
吹き付ける風は殺気混じりで、遠くから眺めるだけでも身震いする所だが、来訪者の3人に限っては平然としたものだ。それもそのはず。彼らは数々の死線をくぐり抜けてきた、人族最後の希望なのだから。
「いよいよやって来てたぜ、長い道のりだったな!」
快活な声で言うのは戦士ラスマーオだ。短く切りそろえた赤い髪は、軽装の鎧からのぞく筋肉質な体つきによく似合う。担ぐ武器も、豪快な気質を反映するかの様に巨大で、人間よりも大きな斧を背負っている。攻撃の要でもある彼は、決戦の地においても頼もしい存在だ。
「みなさん。結界を解除しました」
精霊師エミリアが、手元の杖を輝かせつつ言った。金色の長い髪は、神々に祝福されたように美しく、振り向きざまにサラリと揺れる。体つきは小柄、身にまとうのも薄手のローブ。そんな彼女は魔法を得意とするので、自身に魔力による膜は張り巡らせる事により、凶悪な攻撃を軽減できるのだ。
もちろんこの場でエミリアを侮(あなど)る者は居ない。攻撃やサポートだけでなく、作戦の立案さえも担う重要人物だ。特に邪神の城に攻め込むとあっては、彼女にしか出来ない働きも少なくない。
「おお、さすがだな! これで邪神ネイルオスの顔をブン殴れるってもんよ」
「ですがここは精霊神様の御加護が届かぬ地。解除も一時的なものです。城に乗り込んだが最後、邪神を倒すまで脱出する事は叶わないでしょう」
「いまさら誰が逃げ帰るかよ。武器は万全、回復薬も満載。あとは攻め込むだけじゃねぇか、なぁリスケル?」
ラスマーオは背後の男に声をかけた。その青年は全体的に細作りで、少し頼りない印象を与える。しかし彼こそが、大陸で唯一聖剣を操る事のできる聖者であり、人族最強の戦力なのである。
胴に身につけるのは、銀を基調に金色の意匠がある鎧。それは精霊の鎧と呼ばれる由緒正しき逸品で、邪なる力を受け付けない。更には背中に背負った聖剣オレルヤン。あらゆる魔族を一刀両断に出来る程の名剣であり、実際、これまでに数多くの強者を打ち倒してきた。
そのリスケルの顔色が優れない。アゴ先まで伸びた茶色の髪も、迷いを覚えるようにそよぐ。少し後、伏し目勝ちに返事をしたのだが、それは苦楽を共にする仲間ですら予想しないものだった。
「あのさ、1回街に戻らないか? 勝負は後日に持ち越しってことで」
「持ち越し? なんでまた」
「うーん、何ていうか、今日は日が悪い気がするというか……」
「おいおい、占いをアテにする場面じゃねぇっての。オレ達には一日も早く平和を取り戻す使命があるんだ。そうだろう?」
「まぁ、その通りなんだけどさ」
「皆さん、急いでください。結界の修復が始まりました!」
「よっしゃぁ、行くぞオラァ!」
こうして小さな懸念はそのままで、すみやかに攻め込んだ。リスケルの顔色がいよいよ怪しくなるが、順調に進む仲間達を止める事は出来ず、ただ押し黙るばかりだ。
手薄な城門を突破。それを皮切りに邪神城の攻略は着々と進行。一行は中枢を目指して快進撃を続け、リスケルは2人の背中を追いかける。
(ごめん、聖剣なら折れちゃった)
たったそのひと言が告げられないままに。
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