自転車通学

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自転車通学

とりあえず連絡を取らないといけないので、 萌先輩「こうちゃんLINE教えてー!」  「あ、はい。いいっすよ」 萌先輩「萌のQRこれね!」 と、こんな感じのやり取りでLINE交換を終え、部活を後にし要と紫音と一緒に駅まで歩いたあと、ふたりと違う電車なので 「おつかれー」 と言い別れ電車に乗った。 (しばらくは通学で電車に乗れないなぁ) そんな事を思いまた、学校から帰る電車の中で明日からの事を考えてみる。 自転車通学がやや強引に決められた感があるが、嬉しい部分もあった。それは萌先輩と一緒に通学できるという事だ。あんなに綺麗な人と通学していれば、側から見ればきっとカップルに見えるに違いない。そのところだけは鼻高々なので楽しみである。  だが、とにかく遠い。芦屋市というひとつの市をまるまるまたがらなければならない。そして萌先輩の家の方はきっと坂道が多いはず。考えるだけでゾッとする。時間もどれくらいかかるのか分からない。 萌先輩は「明日朝7時にお迎え来てね♪」 っと言っていたが早すぎるだろっと正直思った。  逆算して余裕見て念のために6時15分に家を出ると思った。が、ここで重大な見落としがあることに気がついた。 (長い距離走れる自転車が無い!) 家にある俺の自転車は古く長い間使ってないようで錆び付いていてパンクもしていたはずだ。 (これはいい口実になるかも知れない!) 俺は帰ったら萌先輩に明日は無理だという断りの連絡入れようと心の中で早くも決めていた。  カバンから家の鍵を取り出し玄関のドアを開け家の中に入る。その音に気づいた母が 母「おかえりー」 と、玄関まで早足で歩いてきて、 母「もうすぐ鈴が帰ってくるの。で、サプライズがあるのー」 と言い、 母「あ!言ったらサプライズじゃなくなるー」 と口を手で覆って見せたが。 (たしかにサプライズじゃないな) と苦笑いした後、 「何があるの?」 と苦笑いをしながら聞いてみたが、母は手で口を覆ったままキッチンの方へと姿を消した。 (なんなんだ?) と不思議に思いながらも手を洗い、自分の部屋へ入り、萌先輩に明日の断りの連絡をしようとスマホをカバンから取り出し電話をかけた。LINEでも良かったが話した方がいいと判断して電話した。 なんかよく分からない今時の曲の着信音の後、萌先輩が出た。 萌先輩「もしもーし」 (相変わらず明るい人だ) 「もしもし姫野です」 萌先輩「こうちゃん、萌と話したくなったんかー?」 「違います!」 萌先輩「じゃあぁ、萌の声が…」 「違います!」 俺は面倒くさいので話を遮り否定した。 萌先輩「なぁーんだ、つまんなーい」 (ほんとこの人はペースがつかめない…) 「あのー実はですね…」 萌先輩「んー?なになにー?なんかいい事ー?」 (ほんとこの人は…) 「よーく考えたら、自分の自転車が古くて錆びていてそしてパンクしてるので…明日行けそうにないです」 萌先輩「あー!なぁーんだ、その事かー」 「だからですね…」 話を続けようとしたが萌先輩が俺の話に言葉をかぶせて 萌先輩「その件は大丈夫だから!」 「え?」 萌先輩「じぁあ、明日7時に待ってるからねー!ばいばーい」 「いや、あの…」  ピッ! 「もしもーし!?」  プープープー! 「大丈夫って?…あれ?」 電話を切ったようだ。 (なんて自分勝手な人だ) 俺は大丈夫って意味が全然分かるはずもなく、呆然としていた。その時、 鈴音「たっだいまー!」 元気な声とともに勢いよく入口のドアをドン!と閉める音が響く。 母「おかえりー!」 母が出迎える声も大きい。そしてすぐに 母「こうじー!こうじー!」 っと俺を呼ぶ声が続く。 (めんどくさい…こっちはそれどころじゃ…) 「なにー?」 一応返事はしておいた。 母「降りてきてー」 (ゲッ!返事するんじゃなかった) 後悔をしたがもう遅い。1階に降りなければならない状況になった。 トン!トン!トン!トン! 「もうー、なにー!?」 俺はあからさまに面倒くさいと言わんばかりの言い方で聞いた。母そんな俺の様子を気にするでもなく鈴音の方を指さした。  鈴音は俺の方を見ながら手招きしている。 (なんなんだよ!) 鈴音「いいから、こっちに来て!」 と言いながらさっき勢いよく閉めた入口のドアを開けた。そして外に出て行った。 「面倒くさいなぁ…もう…」 俺は仕方なく鈴音の後を追い外に出た。 外に出た俺の目に飛び込んできたのは真っ赤なロードバイクだった。新品なので輝いている。 「派手だなぁ!お前らしいけど!」 (活発な鈴音にはよくお似合いだ!) 鈴音「あほー!ちゃうわ!これ、おにぃのやからな」 「へ?」 あまりに予想外の言葉にビックリしたので声すら出なかった。 鈴音「6段変速で坂道も問題なし!長い距離も問題なし!」 鈴音は得意気に言った。 (でもなぜ坂道とか言っているんだろう?……あ!!もしかして部の誰かに明日から俺が自転車で行くのを聞いたのか?) そう俺が考えていると母が出て来て、 母「あら!いいやーん♪ 赤色ですごい目立つから自動車から見やすくて安心やわ」 (子供の心配するのは母だから当たり前なんだろう) 続けて 母「ね!サプライズでしょ」 っと俺の方を向きドヤ顔で言ってきた。 (さっき言わなければサプライズだろうけど…あんまりサプライズ感がしないのはなぜ?) でも色が気になるので 「でも色が目立つから…他の色無かったの?」 と言った途端、母と鈴音が即言葉を返す。 母「目立つからいいんじゃなーい」 鈴音「すずが選んだのに文句言うな!」 (この2人に言いがかりつけると面倒なのでやめとこ…) 「はいはい、分かりました」 とすぐに反論するのを俺は諦めた。 母「はい!素直でよろしい」 鈴音「最初から素直に言えば?」 (鈴音に言われるとなんかムカつく) 「で、誰に聞いたの?」 俺はこのタイミングで通学に最適なこの自転車を購入した事への不思議な現象に疑問しかなかった。 鈴音「あーそれね!えっと…萌さん!」 (謎が解けた。) 「やはりな…でも、すずって萌先輩と合流あったの?」 (萌先輩と鈴音は接点がない) 鈴音「ないよー。でもすずの友達から電話番号聞いたって言ってた。そして萌さんとすずはさっき仲良しになってん」 (簡単に仲良しになるんだな) 「ふーん、そうなんだぁ」 鈴音「萌さんが明日から一緒に自転車通学するようになったからって連絡がきて、すずが自転車壊れてるって言ったらママが買っておいでーってなって今に至るのであった」 (説明が下手だけどなんとなく分かった) 母「そしてママがお金をすずに預けて買いに行ってもらったの」 鈴音「感謝しなさいよねー!自転車屋さんで萌さんに電話して相談して決めたんだからー!」 (萌先輩めっちゃ絡んでるじゃん) 「理解した」 (やっと真相が分かった) 鈴音「色ももちろん相談したよ。黒と赤と迷ったからー」 (なぜ黒にしなかったんだろう) と、思ったが萌先輩と相談したらそういう選択になるんだろうなぁって自然の流れだと納得した。  そういうことがあるからこそ、萌先輩とのさっきの電話のやり取りだったんだともここで意味がわかった。 鈴音「とりあえずすずにお礼くらいちゃんと言ってよ」 (言ってなかったか) 「ありがとう」 俺は素直にすずと母に感謝してそう言ったのであった。 次の日 俺は慣れない早起きをした。6時に目覚ましをしていたが5時半に目が覚めた。遅れられないプレッシャーなのか責任感なのかわからないが、とにかくゆとりを持って用意をして6時半に家を出た。  ありがたいのは母が6時に朝食を出してくれたことだ。きっと母は俺よりも早起きをしたんだろうと思った。感謝しかない気持ちだ。 自転車を漕ぎ10数分で芦屋市に入った。自転車も乗り心地が良い。軽く漕いでいるのにめちゃくちゃ速く進んでいく。赤色が目立つのが気にかかるが、そこはあまり気にしないようにしようと思う。 スマホのナビどおりに行くとどんどん登り坂が多くなり高いところへと向かっているのがわかる。さすがの6段変速の自転車でもキツくなってきた頃やっと萌先輩の家に到着した。でも、家と言うよりは屋敷と言ったほうが正解であろう。 80メートルほどの一角が全て屋敷の敷地となっていてそのほとんどが塀で覆われている。中は見えない。ぐるっとまわる感じで正面の門に到着した。当たり前だが立派な門である。 俺はインターホンを鳴らそうと思ったが、悩んだあげく萌先輩のスマホへ電話した。 萌先輩「あー、も、しもし…」 (言葉になってない…まさか!) 「もしかして寝てましたー?」 萌先輩「あーこうちゃんだー、おはよー…」 (完全に寝ぼけた声だな) 「寝ぼけてますね…お迎えに来ました…」 萌先輩「ん?え?あれ?うわっ」 (きっと今現実がつかめたな…) 「早く起きてくださいね、待ってますから」 萌先輩「え?あ、うん。すぐ行く…」 (俺は気が気でなく早く目覚めたのに、萌先輩はぐっすりと寝ていたんだ) 「はい」 と言い電話を切ると自転車から降りてしばらく待つつもりで花壇に腰掛けた。スマホをいじって15分くらい経った頃、門が開いた。自動で開いた。開いた向こうから萌先輩が自転車を押しながら現れた。 「おはようございます!」 萌先輩「あ、おはよ!…ごめーん2度寝してたー」 (ずっと爆睡してた気がする。ま、気にしないようにしよう) 萌先輩は俺の自転車を見て 萌先輩「へぇー、めっちゃ可愛い自転車やーん。すずちゃんだっけ?センスいいね」 「目立ちすぎだから俺はこの色嫌なんですけどね」 萌先輩「えー!めっちゃいいやーん」 (萌先輩なら当然な反応なのだろう) 萌先輩「7時15分になっちゃったね。ではいきますかー!」 「あ、はい」 (いやいや、ちゃんと起きてて下さいよー) とも言えず、俺は心の中で皮肉った。 そしてふたりは学校へと自転車を漕ぎ出した。
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