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2人での通学
自転車を漕ぎ出すと今度はずっと下り坂だ。さっき上がってきた道をただ自然に任せるだけで漕がなくても進んでいく。道路が狭いので萌先輩の後ろに続いて着いていく。萌先輩の背中だけを見て…
(背中?いや、俺お尻を見てついて行ってる?やばい、こんなの萌先輩に見られたらまた何か突っ込んでくるに違いない!)
俺は悟られぬよう周りの景色を必要以上にキョロキョロと見渡しながらついていった。が自然とまたお尻に視線がいっている。
(あーダメだ。でもキレイな形をしたお尻だなぁ。いやらしい意味ではなく綺麗だ。でも見てはダメだ!)
そしてまた周りの景色を見る。そんな事を繰り返し坂を下っていった。
やがて、坂道がなくなり国道へと入り、神戸方面へと漕ぎ出す。国道沿いには自転車専用道路が並行して通っており、今度は2人並んで進んでいく。俺は今朝からの疑問をいくつか聞いてみることにした。
「先輩!朝起きてなかったでしょ?」
萌先輩「な、なんのこと?萌ちゃんと起きてたもん…」
(はい!寝てたようだ)
「へぇーそうなんですね…」
俺は少し意地悪っぽく言ってみた。
萌先輩「なによその言い方!疑ってん?」
「い、いえ…」
(まぁどっちでもいいけど…次の質問)
「萌先輩の家ってめっちゃ大きいですね!」
(見れば誰でも分かる質問してしまったかな?)
萌先輩「みんなによく言われるよー。でも萌はずっとそこで育ったから、最近なるまで考えたことなかってんけど、やっぱ大きいよなぁ」
まぁまぁ他人事のようであるが、萌先輩の性格ならこんな感じになるのもうなずける。
「大きいっすよー。親御さん仕事頑張ってるんですねー」
萌先輩「うーん。頑張ってるんやろなぁ、頑張ってるから萌も不自由なく生活できてるんだろうけど…」
と、少し表情が曇ったように見えた。そして続けて
萌先輩「萌はね、普通でいいからお父さんとお母さんと一緒にいっぱい過ごしたかったなぁ…高校生になった今でもたまにそう思うよ」
(お金持ちにはお金持ちなりの悩みがあるんだな)
そう思った俺だったが、萌先輩の気持ちもわかる。
「家には執事さんとかメイドさんとかって居てるんですか?」
(ドラマで出てくる以外に見たことないので、実際にはいないと思うが一応聞いてみた)
萌先輩「そんなん居てないよー」
(まぁそうだろうな)
萌先輩「でも、ご飯を作る女の人と家の掃除をする女の人が2人、家全体を管理する男の人が別宅に住み込みで居てるよ。あ、植木のおっちゃんと運転手さんは近所に住んでるよー」
(多いじゃん!いや、それを執事さんとメイドさんって言うのでは?)
「家にたくさんの人が手伝ってくれてるんですね」
俺はそうとしか言えなかった。これまでの俺の経験上に接点のない大金持ちの豪邸だと考えると、謎でしかないし、考えるだけでなぜか緊張する。そして話を続けて
「萌先輩って兄妹はいてるんですか?」
と、あまり関係のない質問をする。
萌先輩「うん。お兄ちゃんいてる」
(萌先輩って下の子なんだ。あ!だから余計にわがままなんだ)
俺からすればわがままで我が道を行くって感じの萌先輩の素性が少し垣間見た気がした。
「何歳っすか?」
萌先輩「大学4年!一応、大学でお父さんの後継ぎの予定で勉強してるわ」
(うわっめっちゃ頭良さそうだけど頭堅そう!)
「お母さんもお父さんと一緒に仕事してるのですか?」
(もぉ家族全員聞いてやれ!)
萌先輩「違うよ…ママは洋服屋さんの店をしてるよ。芦屋の駅前に3階建ての小さい店だけどね。あ、でも服のデザインも最近していて好評なんやと言ってたー、で渋谷にも店出すって今準備中みたい」
(家族みんな凄い人なんだ)
「家族みんな忙しい人ばかりですね」
俺は素直にそう思い感想を述べた。が、萌先輩は
萌先輩「こうちゃんは何不自由無く幸せなんやなぁって思うでしょ?」
「え?あ、はい。思います」
萌先輩「たしかに何の不自由は無いよ。幸せだと思うよー。でもね、…家族みんなで1日中一緒に過ごすのは年末年始くらいで、みんなのようにいつも家族でご飯食べたり、一緒にくつろいだり、お出かけするのって萌はほとんど経験ないねん。旅行へ行っても現地集合だし、ママが作ったご飯を家族だけで食べてみたいって…萌の夢だったなぁ」
(意外な萌先輩の本音を聞いてしまった)
萌先輩の横顔は寂しげだった。俺はお金持ちには絶対に幸せで満たされてると思っていたが、必ずしもそうでは無いと知った瞬間だった。
「萌先輩にも色々悩みがあるんですね」
萌先輩「あらー、それって失礼なんじゃなーい?」
(しまった!たしかに失礼かも…)
萌先輩「ま、いいけどー。でも自転車でぶつかってこうちゃんと初めて会った時、なんか、萌の欲しかったぬくもり感じたよ。」
「えー!あの時っすかぁ?」
萌先輩「だってぇ…だいたいみんな知らんぷりして通りすぎるか、大丈夫?って聞くくらいだもーん。でもこうちゃんは違った。すごく必死になって焦ってくれたし、手が汚れるのに自転車直してくれたもん。ほんと大人みたいに感じたなぁ…」
(あの時、普通の事しただけなのに)
「そ、そうなんですね」
萌先輩「あ、萌の悩みは誰にも言っちゃダメよ。こうちゃんにしか言ってないからね!2人だけの秘密ね!」
(2人だけの秘密って言われるとドキドキするな)
萌先輩「あ!こうちゃんまた顔赤くなってなーい?」
(え?マジか?)
萌先輩「もしかして、秘密って言ったから何か変な想像してなーい?」
萌先輩は目を細めてこちらを見てきた。
「してません!」
またややこしくなりそうなのでキッパリと否定した。
萌先輩「ふーん…ま、いっか」
と言いまた2人は無言で自転車を漕ぎ学校へと進んで行った。
そして例のあの自転車でぶつかったあたりまでやってきた。
(今日もあのおっさん居てるんだろうか?)
俺はキョロキョロとあたりを見渡しながら進む。萌先輩は何ら変わった様子もなく自転車を漕いでいる。
(あそこだ!)
でも、今日はあの男はいないようだ。
萌先輩「こうちゃん、あのおっちゃん居ても無視してダッシュするからね!」
と、言っているがどうも居ないみたいだ。昨日萌先輩に言った後だから警察とか学校関係者とかを警戒して姿を出さないのかもしれない。
「居ないようですね」
萌先輩「うん、じゃあこのまま学校まで行くよー!もう少しだからねー」
こうして2人は学校へ到着した。結構思っていたより早かったし、だいぶ早い時間に学校に着いた。萌先輩と一緒に居ると全く時間がわからなくなる。なぜかはわからないが…
自転車置き場に自転車を置いた。
萌先輩「じゃあまた放課後部活でね!こうちゃんありがとうね」
「い、いえ。じゃあまた部活で、失礼します」
と、言いそれぞれの教室へと向かった。で、いつも通りの慣れてきた6時間の授業を終え放課後になった。今日も要と紫音と一緒に部室へと向かった。向かう途中ナナちゃんと会う。
菜菜香「あ、先輩こんにちわー」
(相変わらず素直だし、何より可愛い)
俺、要、紫音「こんちわ!」
要「今日もよろしくねー」
菜菜香「はい、頑張ります!」
と菜菜香は言って走って女子の更衣室へと向かっていった。
要「可愛いなぁ!」
(知っとるわ!)
要「あんな子彼女だったらなぁー」
(何を言っとるんだこいつは!)
紫音「もしかしてお前…」
「なになにー?」
要「へへーっ、惚れたかも…いや、惚れた!」
(げぇーっ)
「な、何言っとるんだお前?」
俺は完全に焦ってる。紫音は俺の様子を見て
紫音「お前もなのか?」
「い、いやぁ、俺は別に…その、なんだ?あれ、ほらいい子だなぁって…要にはもったいない気が…」
要「はぁ?もったいないってなんやねん!」
紫音「まぁ…いい子やでなぁ!たしかに要にはもったいないかも」
「その通り!」
要「紫音までそんなん言うなよー」
要がちょっと怒った感じになっているので俺と紫音は顔を見合わせた。
俺、紫音「まじか」
要「そのまじってやつだよ!」
(うわっこいつ本気やん)
俺はナナちゃんの事はよーく知っている。いい子なのも出会う前から知っている。だが好きとかいうそういう感情ではない。応援してるがそういう感情ではないのはファンならわかるのだろうが…
要が好きになるのは意外だが自然の事なんだろうと思った。でもナナちゃんはみんなのアイドルって印象が強く要の気持ちを素直に取ってやれない自分がいた。
紫音「ま、頑張れ!応援するから。な、康二」
「お、おう」
(これでいいのか?これでいいのか?)
「いい子だからくれぐれも傷つけるような行動はするなよ!」
俺はファンとしての精一杯の意見を言った。
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