2人での帰路

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2人での帰路

部活が始まったが俺は気が気でなかった。要の突然のナナちゃんへの気持ちの変化は、ファンである俺には衝撃的な事で、落ち着けるはずもなく要とナナちゃんの行動をどうしても目で追ってしまうのであった。  大和先輩からは集中力が無いと何回も注意される始末。紫音からも 紫音「お前何か変やぞ?」 と言われ、終始ボケーっとした状態のまま今日の部活も終了した。 キャプテン「明日は大会が近いので部活は休みにする!全員ゆっくり疲れを取るよーに!」  明日は1日休みになった。 陸上部は定期的に1日休みになる事は方針なようだ。片付けを終え着替えていると要が話しかけてきた。 要「康二、明日お前ん家遊びに行ってええか?」 「ん?別に構わないけど…何するん?」 要「別に何するって事ではないけど、何かさぁ…ほら、落ち着かないっていうか…」 (あぁナナちゃんの事ね) 「お前の話をただ聞いてるだけって…面白くないやん」 要「ぐっっ…まぁそう言わずに、ええやろー?」 「ま、いいよ」 と返事をした時、紫音が部室に入ってきたのを見て俺は 「紫音、お前も明日暇?」 と聞いた。紫音は一瞬考えて 紫音「まぁ暇…ですけど…」 「じゃあ来いよ!て言うか来てくれ!」 紫音「なんだなんだ?訳ありっぽい言い方やなぁ」 要「ん?訳ありなのか?」 (お前の事だよ!) 「実は……」 俺はさっきの要とのやり取りと、ひとりでは要の恋話の相手になるのが面倒だと紫音に伝えた。紫音は話半ばでおおかた理解したようだ。 紫音「ま、そんな事なら俺も明日お邪魔するわ」 紫音は快く受け入れてくれた。たぶん… 明日の約束を終え部室を出るとすでに萌先輩が待っていた。 萌先輩「もぉー遅いよこうちゃん!」 (待っててくれたんだ) 「あ、すいません。ちょっと話し込んでたもんで…」 萌先輩「何の話してたん?男子更衣室で男子どおしの話し合いかぁ?と、す、れ、ば……恋バナかぁ?」 (こういうことには感が鋭いなこの人は…)  俺たち3人は一瞬、えっ?ってなったのを萌先輩は見逃さなかったようで 萌先輩「えっ!当たったー?」 要「い、いえ、違いますよ…なぁ」  要は俺と紫音に同意を求める目で見ている。 紫音「お、おう…」 萌先輩は3人の顔をじぃっと見渡して 萌先輩「ふうーん…まぁいいや、帰り道にこうちゃんにじっくり聞くから」 (マジか!) 要「だ、ダメですよ!康二!言ったらあかんぞ!」 (バカだこいつ…) 紫音(こいつはアホなのか?) 萌先輩「ふうーん、要くんの恋バナかぁ!」 (もちろんそうなるよなー) 要「えっ!な、なぜ分かったんですか?」 俺、紫音「お前だよ!」 萌先輩「ほんま、あんたら面白いなぁ…要くん、萌様が相談に乗ってあげよっか?」 (この人、絶対に面白がってるだけだ) 要「え、いや、あの…」 (焦り過ぎだろこいつは…) 紫音「またその時が来ればじっくり萌先輩に相談すると思います。なので…しばらくは影ながら見守ってやってくれませんか?」 (さすが紫音だ。だが…) 萌先輩「えー!そんなん無理ー!」 (やっぱり…) そう、萌先輩がこう言う事そっとしておけるはずはない。紫音はやっぱりかって苦笑いをしながらも話を 紫音「そうですよね…では、帰りに康二から話を聞いてください。で、とりあえずはどうなるか成り行きを見といてくれれば…」 (おー!さすがナイス切り返し) 萌先輩「そーお?んー…分かった!じゃあ、こうちゃんから内容聞いてしばらく見守っとくわ」 要「お、おい…俺のことを勝手に決めるなよー」 (いや、お前の事を思って言ってるんだろうよ、でも…) 「俺が説明するんかい!」 紫音「だって、お前が萌先輩と一緒に帰るやん」 萌先輩「うふふ♪ 楽しみだー!早く帰ろーよ」 (この人絶対楽しんでる…) 「でも、責任重大な気がする」 要「何かよー分からんけど、康二!任せた!」 紫音「では、そう言う事で…康二任せた!ちゃんと萌先輩に説明しといてくれ」 「えー!…わかった…」 萌先輩「うんうん」 萌先輩はなぜかご機嫌そうな感じである。 紫音「では、失礼しまーす!康二また明日ー」 要「失礼しまーす」 萌先輩「うん、じゃねー。要少年がんばれー」 要「萌先輩!声大きいっすよ!」 萌先輩「ばいばーい!」 (全くお構いなしだな) 要と紫音は歩いて去って行った。それを目で追い萌先輩がくるっと俺を見て 萌先輩「さぁ!なになーに?」 (さっそくかよ!) 「いえ、ここだとあれなので、帰りながら話しますね」 萌先輩「あーね!了解ー!」 こうして俺たちも校門を出て自転車を漕ぎ出した。 学校から自転車を漕いでしばらくすると萌先輩が興味津々な目で俺に話しかけてきた。 萌先輩「もういいんちゃう?早く教えてよー」 すでに目がキラキラしてる。ここまで聞くのを我慢したのが萌先輩にすればよく頑張ったのではないだろうか。 「実は………」  俺は手短に説明した。説明を終えると 萌先輩「なるほどねー、要くんがねー、で、いつ告るん?」 「いえ、まだそんな話までは…」 萌先輩「ダメダーメ!あの子可愛いから早くしないと誰かに取られるよー」 「は、はぁ」 萌先輩「うーっ、じっとしてられなーい!ここは萌様の出番ではないのか?」 (ま、こう言うだろうことは想定内だ) 「大丈夫っす、もし必要があれば萌先輩にお願いするようになるかもしれないので、その時は力になってあげてください」 (我ながら上手いこと言った) 萌先輩「そーお?まぁ紫音くんにはしばらく見守るって約束させられたしぃー…了解でーす」  俺はほっとした。萌先輩が勝手な行動を起こしたら要と紫音に悪いからだ。が、萌先輩は続けて 萌先輩「でもぉ、菜菜香ちゃんって彼氏とか好きな人いてるのか、あんたたち知ってるのー?」 (そういえば知らない) 「いえ、知らないです。たぶんあいつらも…」 萌先輩「あーあー、これだから素人は…、じゃあ萌様がそれだけ聞いといてあげる!」 (たしかに萌先輩の言ってることも一理あるかも) 「絶対にナナちゃんに悟られないようにしてくださいよー」 萌先輩「大丈夫だって!分かってるよぉ、それとなく聞くんだよー」 (ま、それくらいはいいだろう。知っておいたほうがいいだろうし) 「自分からも要と紫音に伝えておきます」 萌先輩はうなずいた。そして 萌先輩「こうちゃんはナナちゃんって呼んでるんだ…」 (あ!しまった) 萌先輩「いつもそぉ呼んでるの?それともこうちゃんの心の中でー?」 (こういうところは聞き逃さないんだよなーこの人は…) 「心の中です」 萌先輩「うん!そうだろうね」 (分かってるならいちいち聞かなければいいのに…) 萌先輩「ナナちゃんかぁ…呼びやすいかもね。で、…ええの?」 「え?何がですか?」 萌先輩「ナナちゃん要くんに取られちゃっても?」 (要に取られる?あーそのことか!って俺がナナちゃんに気があると思ってる?) 「自分はナナちゃんに恋愛感情特に無いっすよ」 萌先輩「ふぅーん…萌は絶対こうちゃんはナナちゃんに恋してると思ってたんだけど…外れたかー?」 (ナナちゃんのファンではあるが恋愛とかそういうのではない) 「ハズレですね」 (でも正直半分は当たってるな。女の感は鋭い) 萌先輩「なぁんだ…自信あったのになぁ」 「何でそんなに自信あったんです?」 萌先輩「だってぇ…こうちゃんのナナを見てるあの目は恋してる目だったように見えたもーん」 「え!俺そんな目で見てました?」 萌先輩「うん、すっごく目がキラキラしてたよー。あ!でも、おっ!て感じで知ってる人見てるようでもあったなー」 (間違いなくこの人はエスパーだ) 「そ、そんな訳ないです!」 萌先輩「あぁー!ムキになるところが怪しいー」 萌先輩はそう言ってニヤけながら俺を見てくる。俺はおちょくられてるんだと察知することにした。 「ハァ…ハァ」 気がつけば息が切れていた。 「ハァ…ハァ…な、何かしんどくないっすか?」 萌先輩「んーだって萌の家もぉすぐだもん。この先ずっと上り坂だよー」 (そう言えば、萌先輩の家から学校へ向かう時ずっと急な下り坂だったなー。て、ことは…あの坂登るのか!) 萌先輩「はい!こうちゃん頑張って!」 「ハァ…ハァ」 (喋るのも辛くなってきた。でも何で萌先輩はあんなに平気に自転車漕いでるのだろう…)  俺は萌先輩の後ろからふくらはぎが目に入った。細い足だが綺麗なしっかりした筋肉が付いている。 (す、すげー!)  俺は思わず萌先輩の脚に見惚れながらただひたすら坂道を登った。 萌先輩「ほらーもうすぐだよー」  萌先輩は息一つ切れていない。男の俺のプライドはこの時にズタズタにされたような気がするくらい萌先輩と俺との体力の差は歴然だった。 「ハァ…ハァ…あー!やっと着いた!ハァ…」 萌先輩「ほい!到着ー!お見送りご苦労であった!」 (この人すごい!)  俺は初めて萌先輩を尊敬した瞬間だった。この人は今あの自転車事件で部活もストレッチのみで走ってる姿を見ていないが、走るとどんなんなんだろうと俺はすごく興味が湧いた。 (走る姿を見たい!)  俺がボーッとしているのを見て萌先輩は 萌先輩「どおしたん?大丈夫ー?帰れるかー?」 (俺心配されてる?) 「い、いえ…萌先輩っていつから復帰できるのかなぁって思って…」 萌先輩「え!心配してくれてんのー?こうちゃんは優しいね!…えーとね…月曜日から練習合流出来るよー…って、言わなかった、っけ?」 「聞いてません!」 (この人肝心のことは忘れるんだ) 萌先輩「なので月曜日から練習も一緒だからよろしくねー」 「あ、はい…」 (でも萌先輩の走りが見れる!) 萌先輩「明日はゆっくり身体休めてね…あ!こうちゃんとこに要くんと紫音くんが来るんだったね。楽しそう…」 「楽しければいいんですけどね…」 (ナナちゃんに要が惚れてると考えるとどうも気が乗らないな。要はいいやつなんだけど…) 萌先輩「んー…萌も行ってあげたいけど…」 (いや、呼んでないけど) 萌先輩「萌は明日はスパイク買いに友達と行く約束してるから無理だ。ごめんよぉ〜」 (だから呼んでませんって!) 「いえ、大丈夫です。ではお疲れ様でした。帰りますね」 萌先輩「うん。気をつけて帰りなよー。ありがとね」 「はい、失礼します!」 萌先輩「おう!ごくろう!バイバーイ」  俺は頭を下げて今度は坂道を下って行き、振り返ると萌先輩が手を振っていた。振り返そうとしたが何か違う気がして俺はまた頭を下げて帰路についた。
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