優馬という男

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優馬という男

6人でゾロゾロとスポーツ店へ入っていった。このスポーツ店にはこの辺りで陸上用のスパイクがいちばん多く扱っていると言うことで我が陸上部の部員のほとんどが利用している。  俺も実際にじっくりと陸上用スパイクを見るのは初めてで、こいつらに付いて来てもらって正直救われた。 紗里「うちらサッカーのとこ見てくるわ」  と言い、鈴音と菜菜香を連れてサッカーコーナーの方へと女子たちは消えて行った。なので男子3人で陸上用スパイクの置いてある場所へと向かった。 要「おー、ここやで康二」  要が案内役って訳でもないのにドヤ顔で俺たちに言ってきた。 「ほぇー、けっこうあるなぁ」 (自分が思ってる以上の品揃えだ) 要「おい!康二!よく聞けよ! 陸上のスパイクは短距離、中距離、長距離と作りも靴底もポイントもそれぞれ違うから分からないことがあれば俺に聞けよ!あと、土用とゴム用とも別れているので気をつけて見るんやぞ!」 「お、おう、了解!」  得意気に説明してくるが、俺はほとんど素人なので従ってやることにした。それにしても種類が多くややこしい。ひとりで来なくて良かったとつくづく思った。 紫音「ところでお前、土用とゴム用のどっち買うの?」 (土用とゴム用なんてさっき初めて知った) 「し、知らん!」 紫音「そこ重要やろ?とりあえず学校は土用やし近い試合も土やから土用2足買った方がいいと思うぞ」 (へぇなるほど!) 「じゃあ、土用買うわ。って何が違うん?」 紫音「色々あるが、主な違いはスパイクのポイントの先が尖ってるのが土用で、そうでないのがゴム用かな」 「へぇー」 紫音「ま、いざとなれば先だけ交換すればいいよ」 (こいつ親切やし分かりやすいなーって、あれ?要はどこいった?)  辺りを見渡すと少し離れたところで目をキラキラさせながら自分でスパイクを履いて独り言を言っている。どうも自分の世界に入っているようだ。よほど陸上オタクなんだろうかとさえ思った。  その時、ふとスパイクのコーナーの入り口付近にしった顔が現れた。俺は一度見て、もう一回見直す。  萌先輩だ。 萌先輩……と?誰?男の人が一緒の様子だ。萌先輩は俺と紫音にすぐに気付き駆け寄って来た。 萌先輩「おい!陸上少年たちよ!スパイク選びか?」 「こんちわ!はい!まぁそんな感じです。」 紫音「こんちわ!」 萌先輩「おぉ!感心感心!で、2人で来たの?」 紫音「いえ、要と菜菜香ちゃんと同級生の女の子と康二の妹で来ました」 萌先輩「あぁ!鈴音ちゃんね!どこおりよるん?」 紫音「サッカーコーナーのところやと思います」 萌先輩「そっかそっかぁ!後で会いに行こ♪」 紫音「ところで…横の人は…あれ…彼氏さんですか?」 男の人「そうでーす!俺が…」 萌先輩「全く違いまーす!」 と言い、男の人をキッと睨んで 萌先輩「幼馴染みの佐久優馬(さくゆうま)、今日スパイク見に来る約束をあまりにしつこいからしてあげたの」 「なぁんだ、そうなんですね」 優馬「おいおい、少年いずれ彼氏になるんだから覚えておけよ」 萌先輩「いや、ないから!」 紫音「…もしかして、佐久優馬って大阪の白風学院(しろかぜがくいん)の?」 優馬「お!やっぱり俺って有名人。当然だけど…」 紫音「そりゃ関西高校No. 1スプリンターですからね。陸上してたら知らない人はいませんよ!なぁ?」  紫音は、俺に同意を求めた。が、正直…知らない。 「いや、知らん!」  優馬「は?」 萌先輩「ハハハ!笑えるー!こうちゃんらしいなぁ」  優馬は俺があっさり答えたのが気に入らなかったのか俺を睨んで言ってきた。 優馬「おい少年!お前なんかが背伸びしても届かないところで俺は陸上してんやぞ!口の聞き方に気をつけろよ」 (うわっ怒ってるじゃん) 「え?あ、すいません」 萌先輩「なにー?あんたうちの後輩に感じ悪い言い方やめてー」 優馬「あぁ?だってよー言い方生意気やんけ」 萌先輩「知らないから知らないって言っただけやん。いちいち突っかかるのやめてくれる?それに…この子はあんたの上をいく素質あるんやから!」 優馬「はい?俺の?…ハハ、無理無理!」 (いや、ほんと感じ悪いな)  そこへ要が萌先輩に気付いて寄って来た。 要「こんちわっす!ってあれ?もしかして白風学院の佐久優馬さんっすか?」 優馬「ほら!普通はこういう反応するぞ」  優馬は萌先輩にほらっと言わんばかりの顔で見た。要は話を続けた。 要「よく知ってますよー、短距離は関西では敵無しだとか…」 優馬「うん!うんうん♪」 要「あと…性格は最悪とも聞いてます」 優馬「えっ」 萌先輩「プププ…」 優馬「萌、お前の後輩たち教育なってないんとちゃうか?俺がしつけたろか?」 (うん、性格は最悪だなこいつ) 要「え?俺失礼なこと言ったかな?」 (いや、言うたやん) 紫音「うん、言ってた」 優馬「やはりこいつら俺をなめとるな!」  俺はだんだん上から一方的に大きな態度をとってくる優馬に腹が立ってきた。 「あんた、年下に大人気ないっすね」 優馬「はぁ?少年もう一回言ってみろ」 「この距離で聞こえないんすか?耳アカ溜まってます?」 優馬「お前こら!やってまうぞ!」  さらに凄んで顔が真っ赤になった。そして今にも飛びかからんとばかりの様子である。 萌先輩「はいー!そこまで!」  萌先輩が静止して割って入った。 優馬「あんた喧嘩しに来たんか?で、こうちゃんも挑発しないの!」 紫音「そやな、エキサイトせんとこ」 「俺はいたって冷静ですが…?ま、彼が大きな声出すから人が集まって来たから恥ずかしくもあるけどな…」 優馬「このガキ!」 萌先輩「あんたもう…帰ろか?先外に出といて!」 優馬「ちっ、うっといのぉ!こらガキ!次会ったら覚えとけよ!」  っと捨て台詞を言い残してこの場を去って行った。 萌先輩「はぁ…もう…めんどくさっ」 要「あのー、なんかすいませんでした!」 萌先輩「あーいいんよ…」 「すいません」 萌先輩「まぁ今回はこうちゃんも短気だったけどね…でも、こうちゃんも良くも悪くも気が強いところあるんだね!」 紫音「彼氏怒って行きましたね…」 萌先輩「だ、か、ら、彼氏じゃないってば!ホントだよ!」 「え?好きじゃないのですか?」 萌先輩「ん?気になるー?」 「はい」 萌先輩「お!正直な反応やな!そ!全く決して好きではない!そして絶対に付き合うことは天地がひっくり返っても無いから!」  俺はこの時心の奥深くでホッとしていた。この萌先輩の言葉になぜか心躍る感じがしたからである。 萌先輩「でも、あの人のスプリンターとしての実力は本物やで!オリンピック選手を何人か手掛けたあの白風学院の監督が、大阪からスカウトに何回か通ったってくらいの逸材ってことだけは覚えといた方がいいかもよ」 「あいつに勝ちゃあいいんすよね?」 萌先輩「うふふ、楽しみにしとくね!でもね、あいつに勝つためにはまず県大会で成績を残して代表にならないと勝負できないからね」 「了解です!」 萌先輩「じゃ!うち帰るわ。あ!鈴音ちゃんたちもよろしく言っといてね!」 要、紫音「はい!お疲れ様です!」  こうして萌先輩は手を振り帰っていった。俺たちはそれを見届けて再びスパイク選びを再開し、無事土用スパイク2足を買うことができたのであった。
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