例の男と優馬という男

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例の男と優馬という男

 萌先輩と一緒に通学するようになり、早くも1週間経った。萌先輩が菜菜香に彼氏がいるのかを聞いたらしい。菜菜香は彼氏もいないし、まだ付き合ったことさえないと言っていた。当然だ。  俺は心の中では何となくわかっていた。菜菜香のいたアイドルグループでは恋愛禁止だったからだ。アイドル生活の中学の時はそれどころではないくらい忙しかったであろう事も想像できる。だがそれをみんなに言えば俺自体がいろんな疑問を突きつけられそうなので言うのはやめておいた。だが、要はそこから何も行動を起こせず何も進展していない。萌先輩ではないが、ここまで変化が無ければ面白味がない。 そして、今日は萌先輩が午前中は病院へ行くようである。市内大会まであと2週間となり、念のため診てもらうようだ。今は練習はストレッチ中心で、調整しながらのメニューを1人でこなしているが、何も問題がなければ今日からみんなと合流して本格的に練習参加できるらしい。  俺も萌先輩の全力を見たことが無いので楽しみだ。なので、今日は久しぶりに俺は1人で通学をしている。自転車での1人での通学は初めてである。いつもの癖で同じ時間に家を出たが、萌先輩の家まで行く必要はなかったので早く学校へは到着するだろうが、まぁいいだろうと考えながら漕いでいる。 (そろそろ萌先輩が自転車転倒させられた場所だな) あれからあの男の姿は見なくなっていた。もう諦めて何もしなくなってきたんだろうと思いその場所へ差し掛かった。 「あれ…いる?」  あの場所で男の人が立っている。いつもの自転車ではなく立っている。が、例の男ではなく見たことある顔だ。間近にい差し掛かった時、わかった。それは優馬だった。さすがに無視するわけにもいかず挨拶をする。   「おはようございます」 優馬「ん?おぉ…あの生意気少年やんけ」 (まだ根に持ってるんだ) 「あ、いえ…で、なぜここに?」 (まさか俺を待ち伏せ?いや、気づいてなかったから違うか…じゃあ何?ていうか、学校はどうした?) 優馬「お前に用があったわけじゃない。萌の為や!」 (萌の為?ますます意味がわからない) 「どういうことですか?」 優馬「萌にちょっかい出してくるおっさんと話つける為や!萌が安心して学校に行けるようになる為に…」 (へぇ、見かけによらずいいところあるんだ) 優馬「萌が安心できるようになったら生意気少年と一緒に学校へ行く必要無くなるしな!」 (いや、そういう理由だけではないんだけど…) 「は、はぁ」 優馬「だが、どんな奴なのか顔が分からへん。…あっ!君知ってるんちゃう?」 「はい」 優馬「おぉ!ナイス!少し一緒にいて教えてくれやん?」 (あちゃー…めんどくさ) 優馬「まだ時間あるし、いいやろ?」 「少しだけなら」 優馬「おー!そうしてくれたら助かる」 (ま、萌先輩の為になるなら…) 「あ、はい」  俺はそう返事をして邪魔にならないところへ自転車を停め優馬の横に並んだ。 「ところで今日学校は行かないのですか?」 優馬「あぁ、創立記念日で休み」 「部活は?」 優馬「久々のオフ」 (なんとなく納得) 「だから時間あるんスね」 優馬「まぁな!萌から話聞いてもっと早く来たかったんやけどな…サラリーマン風の男め、懲らしめてやるわ!そして萌が俺に惚れるって訳よ!」 (なんとなく下心がわかったなしかも、サラリーマン風ってどんなイメージしてんだろ?コワモテでガタイは良かったイメージだが…) 「相手の人けっこうゴツい人でしたよ」 (いちおう伝えとくか…) 優馬「問題ない!俺は空手と剣道を習ってた。萌にいちゃもんつけた事を後悔させてやるよ!だから君はその男を教えてくれさえすればいい」 「でも手は出さない方が…」 (こいつもスポーツ選手だしな) 優馬「口で言ってもわからん時はそうするまでだ!」 (こいつすぐケンカする性格なんでは?) 「でも最近見なくなったし、今日も来ない可能性が高いですよ」 優馬「…」  だが…その時、あの男が自転車に乗り現れた! (間違いない、あいつだ) 今日もネクタイはしていないがスーツ姿だ。ゆうゆうと自転車を漕いでる姿は憎たらしくさえ見える。その男は俺たちの方を不思議そうに見た。 「あいつです」  あの男をじっと見たまま俺は優馬に伝えた。 優馬「ご苦労さん。学校行ってええよ」  そう言うと優馬はその男をじっと睨み歩き出した。あの男もスピードを落としてこちらを見ながら進んでくる。近くに来れば身体付きもよくわかる。筋肉質でやはりゴツい。そして男の方から口を開く。 男「あぁん?なんか用か?」  すでに凄んでいる。 優馬「あ、あなたが彼女にちょっかい出してる人か?」 男「なんやお前ら?あの女のツレかコラ?」 (口悪い男だな) 優馬「だ、だったら何や?彼女にもう近づかないようにし、しろよ」 (緊張してる…まさか) 男「知るかボケ!」 優馬「な、何を…」 (なんだ?こいつビビってるじゃん)     男は優馬のこの様子を察知したのか、更に脅しにかかる。 男「おい、にいちゃん!俺、空手の段持ちやからケガさせてもしらんぞ?」 優馬「え!だ、段持ち…」 男「なんの話しに来たんかわからんけど、女に自転車の弁償せぃって言っとけ!」 優馬「えっ、いや、その…」 男「あー!なんやー?」 男は大きな声で威嚇してくる。俺は優馬へ小声で 「佐久さん、言ってやるんじゃなかったのですか?」 と囁いた。優馬は 優馬「あ、いや…」 男「はっきり喋れや!」 「佐久さん!」 優馬「いや、あのー、そのように伝えておきます」 (なんだそれー) 男「わかればいいんじゃい!ボケ」 優馬「で、では失礼します」  と言い逃げようとする。 男「待て!」  続けて 俺「お前ところで誰や?身分証出してみろ!」 優馬「あ、はい…こういうモノです」 (出すんかい!)  優馬は学生証を出した。男はそれを奪い取り 男「ふぅん…高校生か!金もらうまで預かっとくからな!」 (あかんやろ!それ) 男「お前も出さんかい」 (え、俺?)  男はどうも俺に言っているようだ。俺はわざとキョロキョロしてみせると 男「お前だよ」 (やっぱり俺か) 「無理ですね」 男「あー?お前俺をなめてるのか?」 (最近よくこんな展開になるなぁ) 「人に渡すモノではないので…」 (俺に矛先がきたんか) 男「お前ちょっとこっちに来い」  男は道路から見えにくい裏手の倉庫跡のようなところへ上着を脱ぎながら歩いていく。暴力をやる気満々のようだ。 (仕方ない、こうなったら…) 優馬「あ、おい、お、お前…やめとけ…」 「いえ、大丈夫っすよ」 優馬「お前何言って…」 が、その時、 男の人たち「おい、コラ!待てー」  なんと!男の人2人が走ってきた。よく見ると青海高校の体育教師である。 (お!ナイスタイミングじゃん) あの男は慌てて自転車にまたがり猛スピードでダッシュした。教師はそれを追う。あと3メートルほどで追いつく。しかし、自転車の加速が勝りギリギリのところで男は見えなくなっていった。 教師「お前ら大丈夫か?」 「はい、特に何もされてません」 優馬「ハァ…助かったぁ」  そう言うと優馬はその場でへたり込んでしまった。よほど怖かったのだろう。 教師「君、いくつ?どこの子だ?」  優馬はハッとして立ち上がった。 教師「君は大丈夫なのか?」  優馬は軽くうなづいた。そしていきなり男が逃げた方向とは逆方向に全速力で走り出した。何か気まずいことでもあったのかと思ったが、きっと色々説明するのが面倒くさくなったのだろう。そう、優馬も逃げたのである。 教師「お、おい君ー!」  教師の言葉にも振り返らずそのまま走り去って行った。が、ここで問題がある。 (あいつ学生証どうするのだろう?) 学生証はあの男が持ったままだ。無くなれば何かとこの先都合悪いはず… (ま、知ったこっちゃ無いんだけど…) っと思い自転車に近づいた。ふと下に視線をやると何か落ちている。  財布だ! (あの男のか?)  どうやら逃げる時に上着から落ちたようである。俺はそれを拾った。そこへ教師がやってきて 教師「自転車で逃げた男が、例の伊集院に脅しをかけてる男やったんか?」 (伊集院?…あ!萌先輩のことだな)  俺はさりげなく拾った財布をポケットに入れ、うなずいた。 教師「やっぱりか!君は名前は?」 「あ、姫野です」 教師「姫野君ね!学校でまた詳しく教えてくれ」 「わかりました。では…失礼します」  俺はサイフがポケットに入っているのを確認しながら自転車にまたがり学校へと向かった。そして早く学校へ着きサイフを開いて見る為にスピードを上げた。
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