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優馬と萌って?
さっきの佐久の住所が、帰り道の途中にあるので寄って帰ることにした。ムカつく奴だが無ければ困る物なので届ける事にした。大人が運転免許証を無くすのと同じくらい大事だと思ったからである。
佐久の家は萌先輩のところから10分ほどのところにあった。予想通り大きな家である。黒色のベンツと国産の高級車とワンボックスカーが車庫に並んで停めてあるのを見ればお金持ちだとすぐにわかる。むしろわかりやすい。
キンカーン!
呼び鈴も普通の呼び鈴より高級感がある。しばらく待つと
優馬「なんや?」
インターホンへ出ることもせず、いきなりシャッター横のドアが開いた。きっとモニターで俺って確認してからの行動だと思う。
「なんや?ってなんっすか?学生証持ってきたんっすけど…」
(返すのアホらしくなってきた)
優馬「え?どうしてそれが?」
だいぶ驚いている様子だ。
「話して返してもらってきました。」
(財布の事はいちいち言わんでもええやろ)
優馬「あの男にか?嘘だろ…」
「本当っす、ほらこれ…」
俺は学生証を見せた。
優馬「おぉ!マジやん!」
俺は学生証を手渡した。
優馬「明日取り返しに行くつもりやってんけどな…」
(うそつけ!)
優馬「ま、手間が省けた」
「萌先輩にももうちょっかい出さないと約束したんで大丈夫だと思います。」
優馬「お前が?…そっか…じゃあな!」
(え?)
優馬は学生証を受け取ると礼も言わず勢いよく扉を閉めた。俺は一瞬キョトンとしたが優馬にそこまで期待してた訳ではないので怒りを覚えなかった。そして帰路へとついた。
次の日…
今日は萌先輩といつも通り一緒に登校している。
「萌先輩が真面目に走るの初めて見ましたが、凄すぎて感動しましたよ」
萌先輩「んー?萌が真面目な姿見てそんなに感動したんか?いつも萌真面目にしてないみたいやーん」
(あれ?)
「違いますって!走るフォームと加速の凄さの事っすよ」
萌先輩「はい!分かってますよ〜。ちょっとからかっただけー…ありがと」
(なぁんだ…分かって言ってたのか…)
「練習で俺にもっと色々指導して下さい!」
萌先輩「あらー…こうちゃん真面目ー…でも、そういうところこうちゃんのいいところなんやろね!分かったよー」
「ありがとです」
そして萌先輩が自転車で怪我した辺りへと差し掛かった。もちろん竹内はもういない。そう思っていたところ萌先輩が
萌先輩「あの男ならもう心配いらないようやわ。」
「はぁ」
萌先輩「昨夜、優馬から連絡があって、話つけたからもう大丈夫って言ってたから」
(おいおい…)
「そ、そうっすか…良かったです」
俺は頭の中が違和感でいっぱいなのだが、萌先輩には真実を言わないことにした。詳しく話すのも面倒だけど、萌先輩の為に無茶したって余計な心配をかけてしまうと感じたからだ。
萌先輩「とりあえずホッとしたわぁ」
(気丈に振る舞ってたが、内心はきっと怖かったんだろうなぁ)
「ほんと良かったです」
そして学校へと到着した。自転車置き場で自転車を停めて萌先輩と別の方向へ歩き出す。
「それではまた部活で、失礼します」
萌先輩「うん、またね!」
そして少し間を置いて
萌先輩「ありがとうね!こうちゃん」
「え?なにがっすか?」
(なんのことだろ?)
萌先輩「うふふ…」
萌先輩は1人で笑いそして歩いて行ってしまった。
放課後…
今日の練習メニューはフォームの確認と矯正を中心に取り組んでいる。大会直前では出来ないことなので今のうちに矯正できるところはしておこうということらしい。俺は大和先輩と要との3人1組になっていた。本心では萌先輩と一緒が良かったのだが、男子は男子、女子は女子っていうことのようだ。
萌先輩はくららとあと1年生と一緒にやっているようだ。
大和先輩「姫野ちゃん、お前のフォームはキレイやし完璧に近い。が、更に上遠目指すなら少しでも悪いところは直しておいた方がいいぞー」
「はい、分かってます」
要「お前、加速はいいけど、出だしの15メートルは最悪やもんな」
「わ、分かっとるわ!」
要「素人丸出しやもんな」
「だから!分かってるって!それを教えてくれって言ってんやろ」
大和先輩「うん、分かっていればそれでいい。あと、スピード乗った時も身体が左右にブレる、つま先がやや外に開いてる、あと視線の持っていき方が俺は気になっているがな…って考えたらめっちゃあるやん!」
大和先輩はニヤけながら言っている。
(この人真面目なのかどうかわからん人だなぁ)
っとそこへ
藤代先輩「そもそもあんたスタート下手すぎ!スタートからの体重の掛け方下手すぎ!フォームの矯正と平行して練習しなさいね」
(いつの間にいたんだこの人?しかも言葉厳しいしなーやっぱり俺この人に目つけられてるのか?)
「は、はい。了解です。ありがとうございます」
藤代先輩「大和、甘やかさないで徹底的に鍛えてね」
(ま、マジかー)
大和「お、おう…」
藤代先輩はそう言うとまた別のグループの方へと行ってしまった。
要「大和先輩、相変わらず厳しいっすね」
大和「まぁな、でも楓は陸上のこと俺らの数倍勉強してる。この部で誰よりも詳しいし、個人個人を細かく見てチェックしてる。部のメニューもほとんどは楓が考えて決めているくらいだ。だから楓が言う事は間違いは無いと俺は思ってる。」
(へぇ…そうなんだ)
俺は藤代先輩の事何も知らなかったんだなぁって思った。そして3人でお互いのフォームについてチェックし矯正してそれぞれの課題を決めていった。
大和「これから今日決めたことを、お互いにチェックし合って意識していこう!」
俺、要「はい!」
大和「じゃあ早速始めるぞ!」
こうして練習は進んでいき、今日の練習も終わった。終わってからくららと話すと
くらら「萌先輩ってめっちゃおもろいし優しいねんけど、説明するのめっちゃ下手やったわー」
「あー、なんとなくわかる気がする」
くらら「だってさぁ、足をグワァってとか腕をガキってとか、しまいにはサクサクっとグワァって走るとかほんま意味わからんかった…」
(俺萌先輩に指導してもらうのやめとこかな)
くらら「でも一生懸命に教えてくれるから…嬉しいねんけどな…じゃあね」
「じゃあ」
きっと萌先輩って野生的な選手なんだろうなぁって考えた。本能のみで走ってるわけでは無いのだろうが、頭の中ではそういう風なイメージで走ってるんだろう。
練習後、帰路でのこと
萌先輩が朝言ったか「ありがとう」の言葉が気になった俺は聞いてみた。
「あ、そうそう…朝のありがとうって何なんっすか?」
萌「え?…」
しばらく考え
萌「あー!あれね…こうちゃんへの感謝の言葉だよ」
「俺に?なんでっすか?」
萌「いや、あの男に話してくれたのこうちゃんだから!」
(え?知ってる?この人たまに核心つくから驚かされる)
「い、いや…」
萌「だってぇ、優馬があんな男に話せる訳ないやん。あいつめっちゃ気弱いのに」
「あー」
(たしかに!)
萌「嘘ついてまで萌に気に入られようとするアイツの情け無さには改めて幻滅やわぁ。ま、本当にアイツが話つけたとしても興味持たんけどね」
「え、そうなんですか?容姿良いしスポーツは有名人だしお金持ちだしモテそうですけど」
萌「萌はね、そういうところで心動かないよ。中身って訳では無いんだけど、萌の心にピーンって来る人が萌はタイプ。あ、でも優馬は何しても、どんな良い人であってもタイプじゃ無いから…生理的に無理!」
(うわっあの人めっちゃ言われてるやん)
萌「ありがとね、こうちゃん」
「でも、なぜ俺って思ったのですか?」
萌「うふふ…ひ、み、つ」
「なんなんっすかー!それー」
萌「ま、いいやんいいやん」
この後何回か聞いてみたが萌先輩はそれ以上教えてくれなかった。
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