通学〜出逢い

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通学〜出逢い

電車から降りたふたりは改札口を出た。電車の中での鈴音との会話は、俺が自分の体の軽さからついニヤけてしまったのを見て 鈴音「うわっ!きもっ」  と言われたくらいである。 鈴音は改札口から出てくる人の波から2人で歩いてる女友達を見つけると、 鈴音「おにぃ。学校まで友達と行くからー」 と、言い友達のもとへと小走りで駆け寄って行った。 そもそもここまで一緒に来た兄妹というのも珍しいのではないかと俺は思うが、、、 女友達は俺に気づき、ペコッと頭を下げて3人仲良く学校へと楽しそうに会話しながら早足に進んで行った。 「確かあの角を曲がってこの長い商店街を真っ直ぐ15分ほど歩いて、抜けたら学校が見えてくるはずなんだよなぁ」 と不思議な記憶に独り言を言いながら歩いた。  角が近づいてくる。 その時、後方から チリンチリーンッ と自転車の音がした。 (あぁ俺に鳴らしてるんだ) と思い道路の端っこへ寄った。振り返ると 自転車には鈴音と同じ制服を着た女の子が乗っていた。 「ごめんねー」 そう言いながらふわっと俺の横を勢いよく抜き去って通過する。残り香がいい匂いがした。 (キレイな子だなぁ) 正直にそう思った。そう思わざるを得ないというほどスタイルも良く、長いサラサラの髪が美しくて輝いていた。  その自転車が角のとこあたりに差し掛かった。 その時! 死角から凄い勢いで自転車に乗った中年のサラリーマン風の男が飛び出してきた。  ガッシャーン!! ものすごい音がした。 女の子が自転車ごとひっくり返った。飛び出してきた男はヨロヨロとしながらも倒れなかった。そして 「気をつけろ!クソガキ!」 と怒鳴り、また自転車を漕ぎ急いでその場から過ぎ去って行く。 (どう見てもお前が悪いだろ) 俺はそう思いながらも倒れた女の子に目をやった。  すごい勢いで倒れたが、女の子は起きようと動いているので大事に至って無いのはなんとなく感じた。 俺は気がつくと女の子のもとへと駆け寄っていた。目の前での出来事だったからなのか無意識で体が動いていた。  女の子はブツブツ言っている。 女の子「何なん!あのオヤジ!」  ご立腹のようである。 「大丈夫ですか!?」 女の子「え?あ!う、うん」 女の子「大丈夫…!…じゃなーい!」 「え?」 女の子は右手の肘を見ている。俺はその肘に目をやった。擦りむいて赤く血がにじんでいる。 女の子「もぉ、、、最悪やーん」 そして俺は右ひざも擦りむいているのを発見した。 俺「あのー、、、右ひざもケガしてますよー」 女の子「うそ!え?うわっ!ほんまやん!」  右ひざも肘と同じように血がにじんできている。女の子は背負っていたバッグの中からタオルを2枚取り出し右ひざに手際よく巻きギュッと結んだ。そしてもう1枚を持って少し困ったように悩み俺の方を見て 女の子「巻いてもらってもいいかな?」 と左手で持ったタオルをブラブラとさせて言ってきた。 「あ、はい」 と返事をしてタオルを受け取った。そして女の子の右ひじにタオルを巻こうと至近距離まで近寄った。 すごくいい香りがする。しかも間近でこちらを見る視線をヒシヒシと感じる。俺は急に今置かれている状況を把握して焦ってしまう。 女の子「ふふっ」 少し笑いながら 女の子「手が震えてるよ」 (なんてこった。俺としたことが俺の年の半分にも満たない女の子に取り乱して笑われてる?) 「大丈夫ですからじっとしていて下さい」 言葉をしぼり出した。細くキレイな腕だがしっかりと筋肉が付いている。タオルが2周できそうだが今置かれている状況から早く逃れたいので一周巻いてギュッとしばった。 「こんな感じでいいですか?」 女の子「うん。まぁいいかぁ。ありがとね」 と言いゆっくり立ち上がる。俺も同時に立ち上がり自転車を起こした。 女の子「学校へ行ったら保健室に直行せんとあかんわ」 と自転車のハンドルに手を掛けまたがった。 女の子「あーー!」 「ど、どうしたんですか?」 あまりの大声にびっくりして聞くと、 女の子「ハンドルが歪んでるー」 「マジっすか?」 前に回り込み見てみるとたしかにハンドルがやや左方向を向いている。そして同時にチェーンが外れてプラーンと垂れ下がっているのも目に入った。 「チェーンも外れてますねー」 女の子は自転車を降りて視線を下にやると 女の子「うわっほんまや!」 と言い 女の子「ほんっとに最悪やん。どうしよう、、、」 と落ち込んだ様子だ。 俺は 「ちょっと直してみますね」 と言い、自転車の前方に回り込み、前輪を両足で挟んで固定してハンドルに力を込めて右方向にグィッと動かした。少し動いた。そして2、3回グイグイッと動かし調整して真っ直ぐにした。 女の子「おぉー」 感心している様子だ。 「今度はチェーンですね」 女の子「チェーンは難しいからもういいよ」 俺「まぁ、やってみます」 俺は自転車の左側に回り込みチェーンの状態を調べた。後輪の方はチェーンがかかっているが前輪の方は外れている。幸いママチャリのようなカバーで覆われているタイプではなくサイクリング車なのでむき出しになっているためカバーを外したりする必要もなく簡単に修復できそうだ。  俺の自信はリサイクル店での修理の仕事で自転車の修理もしていたからだ。記憶なのかどうかも良くわからないのだが… 「サイクリング車なので修復できると思います」 俺が言うと 女の子「サイクリング車?」 一瞬考えて 女の子「あー!ロードバイクの事ね!」 「あ、そうそう、、、ロードバイク」 俺は言い直した。そしてあたりを見渡し近くにあった植木鉢から鉄の棒を引っこ抜いてチェーンをガチャガチャとしたり時折鉄の棒をくいっくいっと引っ掛けながら自転車の歯車に引っかけていった。 「よし!」 俺はそうつぶやくとペダルに手を掛け逆方向にグルグルと回して確認して 「とりあえず乗れると思います」 と言った。たぶん2分もかかっていないだろう。 女の子「へぇーすごいね君」 と俺を30センチくらい間近でまじまじと見ながら感心した様子。 (いい匂い…だが…照れるからやめて) 俺の顔がやや赤面してると思うくらいドキッとした。こんな風な感じはすごく懐かしいがすごくモワモワする。 女の子「うふふ♪♪照れてる?」 (これが俗に言う小悪魔だ) 「あ、あのー、、ハ、ハンドルの根元の部分とチェーンが伸びてるか、緩んでるっぽいので、あ、後で自転車屋さんに持って行って下さいね」 と、俺は精一杯正常を装って話しごまかした。 女の子「うん♪了解!」 となんとも言えない笑みを浮かべ自転車にまたがった。 女の子「とりあえず保健室に行くので先に行くね。あとこれ…」 と言い上着のポケットからハンドタオルを左手で取り出し 女の子「手、汚れてるよ。これあげるから拭いてね」 と俺に手渡し、そしてペダルに力を入れてゆっくり動き出しながらニヤッと笑い 女の子「ありがとうね!姫野くん♪」 「え!?」 (なぜ俺を知ってるんだろう?) とびっくりしながらもペコっと頭を下げて見送った。 女の子は角を曲がって行った。いい香りだけが残る。 胸がまだドキドキと鳴っている。 (あ!名前聞けば良かった!) そう思いながらも俺はハッと我に返り、あわてて早歩きで学校へ向かった。
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